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あるギタリストが仕掛ける投げ銭イベントで、堀川商店街への注目がゆるりと加速してるらしい

「ポmagazine」編集部
「ポmagazine」編集部

噂の広まり

井戸端会議

「普通の商店街」に出現した迫力の風景

中立売から丸太町まで、堀川通沿いに軒が連なる堀川商店街。

そのほぼ真ん中に位置する「堀川会議室」に、2022年5月、木々に囲まれ巨石が浮かぶ「庭」が出現した。通りに向けて開放された空間に驚き、通りかかった人が足を止める。

このイベント「ニワ」の主催者は、堀川団地在住のギタリスト・山内弘太さん。月一回の「定期音楽鑑賞会」など、多様な音楽イベントを団地棟内の堀川会議室で開催している。


ゴールデンウィークのあいだ、達造園が手がけた庭園が展示され、ラスト2日間はライブや出店も行われた

山内弘太(やまうち・こうた)
1986年生まれ。京都、堀川団地在住。ギタリスト。 歌もの、即興、映像、ダンスとの共演など国内外問わずさまざまな形態、環境で活動。演奏ではギターから出るあらゆる音をその場で加工し積み重ね配置して音像をつくり上げる。ソロ活動をベースに、ギタリストとして「折坂悠太(重奏)」「 quaeru」「 LUCA + There is a fox」、川本真琴、若松ヨウジンらのバンドに参加。制作では映像作品への楽曲提供、録音、ミックスなども手がける。1年ちょっと前から餃子づくりがマイブーム。

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休日昼間から始まる定期音楽観賞会。ドリンクを片手にゆったりと過ごす人が多い

「音のある場所に現れる神出鬼没のカレーユニット」として活動する「咖喱山水」の三好亮太さんとギタリストである山内弘太さんのプロジェクト、Sound Meals。三好さんによるカレー調理音と、山内さんによるギターの即興演奏を重ねた音源を制作。「Sound Meals」シリーズとして、スパイスとセットでも販売している

咖喱山水や、アーティスト兼ミュージシャンの川口貴大さんなど、進取の気性に富んだアーティストのパフォーマンスも盛り込まれた「ニワ」。日常生活と地続きの場所でのイベントづくり。その背景や、これまでの試行錯誤について聞いてみた。


カレーの香りが広がるなか、調理音と山内さんのギターが重なる

川口さんによるパフォーマンス。空間に置かれたオブジェクトを使い、即興で音をつくる。しばらく身を置いていると、庭そのものから音が流れているような感覚に

「わからないけどなんか良い」ぐらいで来てほしい

舞鶴出身の山内さんが堀川団地に入居したのは2018年。京都府と京都府住宅供給公社による、堀川団地を中心とする再生プロジェクトの一環として実施された入居者募集を見つけたのがきっかけだ。「アートと交流」をコンセプトに、地域活性化につながる活動が入居条件とされた。スタジオとしてもライブ会場としても使える堀川会議室の存在が決め手になり、応募を決めたという。


一般的なコミュニティスペースと設備などに変わりはないため、音響機材を自前で揃えるところからスタート

イベントは基本、出入り自由の投げ銭形式。折坂悠太や川本真琴、yeyeといった著名アーティストが出演する場合でも方針は変えない。

「海外で投げ銭形式のライブをすると、日本だと聴く人が限られるような、抽象的な演奏にも人が集まるんですよ。音楽に詳しい・詳しくないに関わらず、自分なりの感想を言ってくれる人も多い。同様の現象をここで起こせないかと考えて、このかたちになりました。ハードルが高い場所、限られた人のための場所にしたくない。以前、僕の何部屋か隣に住んでいる方が見にきて、終わったあとに『ほんまにわけわからんかったけど、なんか良かったわ!』って言ってくれて、うれしかったですね」

アーティストを呼んで行われる堀川会議室でのライブには、幅広く人が集まるからこそ、バランスを重視して構成を組み立てる。

「歌ものもあればアンビエントや即興演奏もある。どれを目的に来てもらっても楽しめるし、なおかつ新しい音楽にも出合える組み合わせを意識しています」

開け放しにしているため、演奏中は車などの音が入って来ることも。ライブハウスとは大きく異なる環境での音楽イベントをどうつくっていくか、山内さんは試行錯誤を続けている。

「音だけに集中するのとはまた違う、聴き心地の新鮮さやゆるく人が集まる雰囲気はここならではのもの。音楽を聴くだけではなく、その場でしかできない体験ができる場所だと思っています」

続けていくことが街にもたらす安心感

イベントについて、少しずつ変化を重ねながら、まずは続けていくことを大事にしたいと語る山内さん。

「定期的に行われている何かが街に存在するだけで、生まれる安心感があると思っていて。コロナ禍と呼ばれる状況でお客さんが集まるライブができない時期に、無観客無配信でライブをしたこともあります。なんの意味があるのかと言われると難しいんですが、お祈りに近い気持ちでやっていましたね。何かしている、そういう存在がいるというのが大事なんじゃないかと」


2021年には神戸の旧グッゲンハイム邸と配信を繋ぎ、ベーシストの稲田誠さんとの遠隔セッションを行った

演奏やパフォーマンスが異色なものであっても、山内さんが手がけるイベントには、不思議な居心地の良さがある。最後の言葉を聞いて、その理由が少しわかったような気がした。

「大変なことももちろんありますが、イベントについて『大変なことをやっている』とはあまり思わないですね。自分の演奏の機会が増えるし、新しい音楽に出合う回数も増える。それでこんな組み合わせで見て聴いてもらえたら楽しいんじゃないかとか、生活自体がそんな感じなんですよ。あとは着実に作品なり演奏なりを残して、人との繋がりとかを大事にしていれば、なるようにしかならへんなと思いつつ。焦りそうな時は餃子をつくったりして、そんな感じでこれからもやっていこうと思います」

企画編集:光川貴浩、河井冬穂、早志祐美(合同会社バンクトゥ)