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雑誌『BRUTUS』の京都特集で泣く泣くボツになったネタを集めたら、“リアルな京都”が見えてきたらしい

雑誌『BRUTUS』の京都特集で泣く泣くボツになったネタを集めたら、“リアルな京都”が見えてきたらしい

「ポmagazine」編集部
「ポmagazine」編集部

噂の広まり

お祭り騒ぎ

ある日、「『ポmagazine』みました」と1件の電話が。なんとその相手は、あの雑誌『BRUTUS』の編集部。聞けば、6月発売号で京都特集をするらしく、その手伝いをポmagazine編集部にお願いしたいというのだ。

「京都の噂ならお任せください」と張り切って依頼を受けた我が編集部。やりとりをするなかでBRUTUSの編集者が呟いた「実は載せたくても載せられないネタがけっこうあったんだよね」「ニッチでヤバい京都の姿も、もっとあったんだけど」という言葉に「それ、『ポmagazine』に載せたいです!」と猛プッシュ!こうして今回の企画が実現した。

誌面からは漏れてしまったネタや取材時のこぼれ話を聞きながら、BRUTUS編集部からみた“今のリアルな京都らしさ”について、伺った。ぜひ、本誌と合わせて楽しんでほしい。

『BRUTUS』表紙
こちらが6月1日発売の『BRUTUS』京都特集号「京都で見る、買う、食べる、101のこと。」。全国の書店にて発売中なので要チェック。

試し読みはこちらから。

『BRUTUS』京都特集号「京都で見る、買う、食べる、101のこと。」

既存の特集にはない、まだ見ぬリアルな京都が知りたくて

ー 今回は、雑誌『BRUTUS』の編集部のみなさんが実際に回ってみて感じた、“京都の街のもつ、京都らしさ”について、取材の裏話も含めてお話を伺えたらと思っています。よろしくお願いします。

鮎川・辻田(BRUTUS編集部 ※敬称略):よろしくお願いします。

ー そもそもですが、どのようなきっかけで、『ポmagazine』を見つけてくださったんでしょうか。

鮎川:僕ら、リサーチする時に地元のメディアもけっこう見るんですよ。

辻田:京都ってウェブ系や個人出版社、フリーペーパーなんかも含めて、メディアが多いじゃないですか。その中でどっかおもしろいところないかなと思ってたら、『ポmagazine』の『京大教授の「不便な旅」にかける情熱がすごいらしい』の記事がヒットして。サイトのアニメーションも面白いし、なんか気になるメディアだなと思って。

鮎川:そうそう、京大教授の噂話をちょうど誰かに聞いて、本当かなと検索したら、「大真面目に取材している人たちがいるぞ!」ってなったんだよね(笑)。

ー 『BRUTUS』で京都特集っていうのは、意外とないですよね。

鮎川:17年ぶりだったかな。もちろん所々で京都には触れてきてますけど、丸ごと一冊は、実はすごく久しぶり。

辻田:うちの会社だと『Hanako』とか『&Premium』とか『Casa BRUTUS』なんかはしょっちゅう京都特集ってやってきてるんです。だから鮎川さんと最初、『BRUTUS』としてどう京都に向きうかみたいな話をしましたね。

鮎川:そこの差別化はけっこう意識しました。社内で似たような本を作ってもしょうがないので。

ー リサーチは、おふたりでされてたんですか。

鮎川:もちろん知り合いや京都の人にもネタだしをお願いして。ひとつ思ったのは、京都って誰に聞いても必ずオススメがでてくるんですよね。2、3個は絶対。どこに住んでる、どんな人でも。不思議な街だなと思いました。

ー たしかに、みなさんそれぞれ得意分野がありますよね。

鮎川:そう、洋服屋さんの好きな食べ物屋さんと、グルメ系の人が好きな食べ物屋さんってちょっと違ったり。いろんなジャンルの人に聞けば全然違う話が出てくるし、そういうレイヤーがあると立体感が出てきて、おもしろいなと。既存の雑誌で取り上げる新店とか話題のお店よりも、“京都人の当たり前が、外の人間からすると意外とすごくおもしろい”ってことがあるんじゃないかと。そういうのって雑談みたいな話の中でしか出てこないんで、とにかくいろんな人と喋らないとダメでしたね。

辻田:あとはロケハンで京都に来たら、自転車を借りて街をずっと走り回ってました。気になった店を飛び込みで入って、話を聞いたり。京都特集に限らずいつものスタイルなんですけどね。行き先ひとつ決めて、そこまでの道のりは適当に路地に入ったり、このへん曲がったらおもしろそうかなとか、感覚で。

鮎川:飛び込みはもう完全に嗅覚勝負というか、変だぞここみたいな。本当にここ取材するんですかって、京都のライターさんに言われたりもしました(笑)。
四条河原町から出町柳、どんどん上がって上賀茂行って「中華のサカイ」食べて、金閣寺、龍安寺、西院に寄って帰ってくるみたいな。京都の人からすると「そんな遠いところまで!?」って言われるんですけど。

辻田:あと飛び込みで入った店で隣に座ったお客さんから話を聞いたりもしましたね。今回、ディープスポットの記事で鮎川さんが取材した「まほろば」も、飲み屋で出会ったお客さんが、「おもしろい店あるよ」って連れてってくれたのがきっかけ。パソコン叩いているだけじゃ出てこない情報ってたくさんあるなって実感しました。

京都には“人が街をつくっている”という空気を感じるんです

ー ここからは具体的に、写真を交えて今回の京都取材の様子を辿れたらと思います。

オオサンショウウオ

ー いきなり強烈な写真ですね(笑)。

鮎川:今回の特集で、一番最初の取材が「京都水族館」だったんですよ。入って一番はじめにオオサンショウウオのコーナーがあるんですけど、すごい大量にいて。でもそれは外来種が混ざっている、混血なんですよね。この写真の1匹だけは日本固有の種で、しかも鴨川で捕獲されたらしくて。
「京都水族館」の広報の方は、ものすごくオオサンショウウオ愛が強いんですよ。「かわいいでしょ!かわいいでしょ!」とかって説明されていたら、横に修学旅行の女子高生の集団がきて、オオサンショウウオ見ながら「うわっキモっ!」とかって言って通り過ぎるみたいな(笑)。すごいシュールな取材でしたね。

ー 実際オオサンショウウオって、けっこうグロいですよね(笑)。

鮎川:そうそう、それを普段『&Premium』とかですごくおいしそうに料理を撮る女性カメラマンさんに頼んでいたので、「チョコチップだと思って撮って!チョコチップだと思って撮って!」って横でずっと叫びながら励ましたっていう(笑)。

ー オオサンショウウオ、京都にいてもそんなに関心がなかったかも。正直。

鮎川:大雨が降ったあと、鴨川の土手に上がってくるって噂があるんですよね。のそのそ歩いていることが。それって僕らからすると衝撃的なんですけど、京都の人からすると、へ〜みたいな温度差がある(笑)。

オオサンショウウオのぬいぐるみ

オオサンショウウオお土産売り場

鮎川:これも、地味にインパクトありますよね。口に手突っ込むっていう(笑)。しかもこんなに大量に並べて。

ー たしかにこれは愛を通り越して、狂気さえ感じます(笑)。今回の取材をとおして、印象に残ったエリアはありましたか?

鮎川:出町柳ですかね、出町枡形商店街とか。全然売れてる気配ないのにずっと揚げてる天ぷら屋さんとか謎の店がいっぱいあって、新しい店もあって。

ー 「出町座」ができた流れからか、商店街内に新しいお店が増えているんですよね。

鮎川:最近だと、「KYOTOGRAPHIE 京都国際写真祭」が商店街の中に拠点をつくったんですよ。1階が「DELTA/KYOTOGRAPHIE Permanent Space」っていう名前のカフェで、企画展もあったり、オープンな場所にしてあって。2階はアーティスト・イン・レジデンスにも対応するし、普通に宿としても貸し出してるらしいです。
「DELTA」はおもしろいですよ。まだ22歳の若いエースホテルのシェフを引っ張ってきたりしてて。彼が商店街の中で買った材料で料理したり、発酵系の昆布茶を自分で作ったり。誌面でもちょっと紹介しましたけど。

出町枡形商店街

鮎川:これ、その「DELTA」の前なんですけど。この「いつもあなたのそばにある」っていうメッセージがたまらないなって。

ー いくつかあるんですよね。「今日も元気だ」「うれしいなぁ」「たのしいなぁ」。京都アニメーションのアニメ「たまこマーケット」の聖地で。

辻田:僕は京アニが好きなので、あれ見た時感動しました。
あとびっくりしたのが、同じく商店街の八百屋さん?

井上果物店

鮎川:果物屋さんでしょ。すごいよねこれ。

辻田:ポップがピンクとか読ませる気あるのか?っていう(笑)。でも一度見たら忘れられないインパクトがあって。すごい色彩感覚。
あと「出町座」は、やっぱおもしろかったですね。記事としてそんな派手に出してないけど。商店街のスーパーだった場所を映画館に変えて、そこにちゃんと人が集まって機能しているっていうのはすごいなと。

鮎川:京都って、人が街をつくっている感じがどこに行ってもあるよね。それこそが京都の魅力。やっぱり若い人が元気だからっていうのも大きいのかな。お店出している料理人なんかもやっぱ二十代、三十代が多いですよね。

飲み屋、銭湯、喫茶店。世代を超えた交流が生まれる場所

辻田:今回、ディープスポットっていう紹介の仕方で、酒場としては「まほろば」と「八文字屋」を取り上げたんですけど。ほかにも「スペースネコ穴」とか会館とか、色々ありますよね。昔からあるディープな店と新しい店が混在しているのが、京都っぽいなと。

鮎川:折鶴会館とか四富会館みたいなところって、うちの他の雑誌で企画会議に出しても弾かれるらしいんですよ。じゃあやろう!みたいな感じで、誌面にも少し出てます。

まほろば

辻田:これは「まほろば」にあるポスター。昔、詩人のアレン・ギンズバーグが京大の西部講堂で朗読会をして、その時に「まほろば」にも来たらしいです。
高瀬会館の「きさらぎ」とか、千本中立売の方にある「ヘルメス」とか、そういったスナックみたいなところもやりたかったんですけど、漏れてしまって。

鮎川:四条大宮の飲み屋街もおもしろかったな。80円串揚げ屋さんみたいなのもあって、そこもおいしかったし。「後院上ル」は、アメリカ製の冷蔵庫でキンキンにキンミヤ焼酎が冷やしてあるとか。それで作るレモンサワーがフローズンみたいにドロドロに凍ってて、うまいらしいです。
全体的に味のレベルの平均点が高いっていうか。外さないですよね、どこ行っても。まずい店は生き残れない街なんだなっていうのは感じました。

錦湯 銭湯ノート

辻田:これは「錦湯」のノート。今回銭湯の企画で撮影場所として借りてて。このノートの書き込みがおもしろかった。本棚もそそられる本がいっぱいあって、落語会をやったり、バンドのライブやったり、DJイベントやったり。カルチャーのある銭湯だなと。

鮎川:京都って世代が継承されていく場所が多いですよね。銭湯、喫茶店、カフェ、飲み屋。そういうところで、みんな年齢なんて関係なく喋っているんですよ。風呂の中で、おじいちゃんと若い子が。京都の良いところだなと思いました。

辻田:今回銭湯の企画で対談してくれた「FROCLUB」の方も言っていたんですけど、銭湯ってスマホを持っていけないじゃないですか。コミュニケーションを取る手段って対面で喋るしかなくて、それがある種、若い世代にとって新しい体験なんじゃないかっていう。「錦湯」のお客さんの様子を見て、まさに!って、思いました。

ー東京にも銭湯はあると思いますが、なにか違いがあるんでしょうか。

鮎川:東京では若い子があんまり行っていないような気がする。京都はもっと身近でしょ。サウナがあるからってのもあるのかな。

辻田:「サウナの梅湯」の功績も大きいとは思うんですけど、にしても東京に比べると若い人がたくさん銭湯にいる。友達同士で来てる。あと京都の銭湯って疲れないんですよね。地下水のやわらかさが、長風呂してもしんどくない。
あと個人的に「白山湯 高辻店」にハマっちゃって。京都で宿をとる時は「白山湯」の近くって決めてます。それこそ今回、取材が20時前とかに終わると、ご飯を食べにいけないことが多かったんです。でも銭湯は夜遅くまでやっててくれるから、おかげでリフレッシュできました。

ー ちなみにさっき銭湯、喫茶店、カフェ、飲み屋って言ってましたけど、喫茶店やカフェで情報を集めたりもしたんですか?

辻田:「六曜社」に時間があいたら行ってたんですけど、めちゃくちゃ若い人いるなと思いました。スケーターみたいな人とか、隣の席でラップ談義している若い子たちがいたりとか。そういう子たちが「六曜社」でコーヒー飲んでるの、いいなと思いましたね。

今まで僕たちがイメージしていた京都は、B面でしかなかった

鮎川:あと街を回ってて、見た目のインパクトで気になったけど……てところも、けっこうありましたね。取材にはいたらなかったんで、小ネタも小ネタなんですけど。

旧市電車両

鮎川:これは、浄土寺の「ホホホ座」の近く。近所の人に聞くと、ここ「京都コンピュータ学院」という専門学校の敷地らしくて。京都市電の廃止後、初代学院長さんが車両を引き取って展示しているんだそうです。電線が張ってあったり、表示の看板とか、線路も当時のものらしく意外と芸が細かい。地元の人が全然気にもとめてない感じもおもしろくて。

平井常栄堂

鮎川:これは川端二条あたりの川沿いのお店。売ってるのは健康食品ってことらしいんだけど、マムシ黒焼き、黒蛇の卵に猿のミイラ……。しかも中で変な煙がモクモクしてて。気になりすぎる。

ヘタな標札屋

辻田:これは、新京極商店街だったかな。気になって入ったら、おばあちゃんが奥に逃げてっちゃって。店内に新聞記事とか雑誌の取材記事とかいくつかあって有名な店っぽいんですけど。何が“ヘタ”なんだろう。

十分屋

辻田:これも同じく看板と店名に惹かれた店、「十分屋」。さっきのヘタな標札じゃないですけど、こういう街にある気になる店って京都だといっぱいありますよね。いまだに現役で店やっているっていうのがいいなと。

鮎川:京都のお店ってキャッチがうまいですよね。人の目を引く工夫をしてる店が多くて。昔から店があふれているからだと思うんだけど、思わず中をのぞきたくなるような、引きの強い場所が多かったように思います。

ー 最後になりますが。取材の前と後で、京都のイメージってなにか変わりましたか。

鮎川:この特集を立ち上げた時に考えていたことがあって。京都って学生がとにかく多いから、人の入れ替わりも多いじゃないですか、あとは観光客の数もすごいし。そういう部分で、京都の街には“新しいものを受け入れておもしろがれる、懐の深さ”みたいなものがあるんじゃないかと。そういう見方で京都を切ったらどんな特集になるだろう、っていうのがスタートだったんですよ。それをたしかめに行くようなロケハンであり取材だったんですけど、結果として本当にその通りだなと思いましたね。

辻田:うちの会社、すごいきれいな京都を取り上げている媒体が多かったと思うんですよ。僕自身も、おそらく読者の方も、そのイメージが強くて。で、実際に京都に行って、雑誌が見せている京都って、実はA面じゃなくてB面じゃん!と思いました。いわゆるきれいなお寺の景色とか、割烹の上品な料理とかっていう、昔からのザ・京都のイメージを否定しているわけじゃないんですけど。京都の人の日常って、もっとスナックだったりとか、街の居酒屋とか。そんなに毎日きれいなとこじゃないんだなっていうのを今回感じて好感がもてたし、普段の京都にまた行きたいなって改めて思えました。

ー 私たちも、普段暮らしていると意識しないような“京都らしさ”を知ることができました。ありがとうございました!

企画編集(敬称略):光川貴浩、河井冬穂、早志祐美(合同会社バンクトゥ)、平田由布子
企画協力(敬称略):鮎川隆史、辻田翔哉
写真提供(敬称略):鮎川隆史、辻田翔哉