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京都の銭湯に全部入った人だからこそ、見えて来た景色があるらしい

京都の銭湯に全部入った人だからこそ、見えて来た景色があるらしい

林宏樹
林宏樹
銭湯ライター

噂の広まり

お祭り騒ぎ

最近ジワジワと熱が高まりつつある銭湯カルチャー。銭湯ファンのあいだでは、ここ京都がその「聖地」と呼ばれているという。

今回の記事を書いてくれたのは、そんな京都の銭湯(さらには滋賀の銭湯も)の全てに入り、銭湯案内の著書も出版する銭湯ウォッチャー、林宏樹(はやし・ひろき)さん。

京都・滋賀の銭湯を全制覇しているのみならず、現在も2日に一回は銭湯に行き、「家の風呂はシャワーしか使わない」という類を見ない銭湯マニアぶりを見せる林さん。そんな林さんが最近、「ある説」を唱えているという噂をキャッチした。

彼いわく、「最近、銭湯シーンに地殻変動が起こり始めている。その震源地は京都」とのこと。

なぜゆえに京都は銭湯の聖地と呼ばれているのか。また「地殻変動」とは何なのか。そんな編集部の疑問を受け、本記事では京都の銭湯カルチャーの現在地を解説してもらった。「京都で富士山のペンキ絵が見られない理由」など、知れば行って確かめたくなる銭湯知識も要チェック。

この記事の内容

1.銭湯の起源はお寺にあり。京都が「銭湯の聖地」と呼ばれる理由

2.銭湯と言えばペンキ絵? 実はローカルな文化だった銭湯。京都のカタチとは?

3.若い力が原動力に。銭湯界で起こりつつある「地殻変動」

4.京都の銭湯はサウナ―も注目。ポイントは追加料金なし&天然地下水の水風呂

5.銭湯+αの可能性は無限大。その広がりが銭湯を面白くする!

銭湯の起源はお寺にあり。京都が「銭湯の聖地」と呼ばれる理由

京都が「聖地」たる理由には、歴史的な事情が大きく関わっています。

銭湯の起源といわれているのは、仏教の布教も兼ねてお寺などで行われていた「施浴(一般の民衆にも浴室を開放し、入浴を施すこと)」。京都には妙心寺など、その遺構がいくつか残っているんです。京都が「銭湯の聖地」と呼ばれるのは、そういった背景がひとつ。

さらに京都は第二次世界大戦で大規模な空襲に遭わなかったので、戦前に建てられた風情ある銭湯が、結構残っているんです。一軒挙げるとすれば、国の登録有形文化財になっている船岡温泉(京都市北区)でしょうか。大正時代に浴場付の料理旅館として開業した歴史があるので、豪華絢爛な造りは一見の価値がありますよ。


金閣寺近く、船岡山のふもとにある船岡温泉。マジョリカタイルが目に鮮やか。

船岡温泉以外にも路地の奥に突如和風建築の趣ある姿が現れる日の出湯(京都市南区)や、洋風建築の宝湯(京都市伏見区)など、個性的な姿で営業を続けている銭湯が多いんです。昔に比べれば減ったとはいえ、現在も京都市内で約100軒の銭湯が営業しています。


JR京都駅から南に徒歩12分の日の出湯は昭和3年頃の建築。
宝湯
JR藤森駅から北に徒歩10分の宝湯。昭和6年創業。

銭湯と言えばペンキ絵? 実はローカルな文化だった銭湯。京都のカタチとは?

さてここまで京都の銭湯をいくつか挙げてきましたが、読者の皆さんは「銭湯」と聞くとどんなイメージを思い浮かべますか?

イラストなどでよく見られるのは「富士山が描かれたペンキ絵」でしょうか。しかし実はこれ、関東の文化なんです。あとは銭湯の外観としてイメージされがちな、お寺のような大きな屋根に唐破風のある銭湯も東京のカタチですね。逆に浴槽の周りに腰かけ段が付いている銭湯は大阪のもの。

銭湯って、もともとはローカルな文化なんです。東京には東京の、大阪には大阪の、京都には京都のカタチがあるんですよ。

京都のカタチが見られるものはと言うと、例えば暖簾ですね。牛乳石鹼さんでは、京都型、大阪型、東京型と分類されていますが、房が長く男女2枚に分かれているものが京都型です。東京型は1枚もので房が短いもの、大阪型は1枚もので房が長いカタチをしています。

京都型暖簾
男女で分かれている京都型の暖簾(日の出湯)

脱衣所にも地域色が表れます。例えば脱衣籠をロッカーにそのまま収納する習慣は京都特有のものです。

長者湯の柳行李
大正6年創業の長者湯では、ひとつひとつ職人の手によって編まれた柳行李のかごが使われている。中には50年以上使われているものも。

京都の銭湯ではカラフルなモザイクタイル(1枚の表面積が50平方センチメートル以下のタイル)がたくさん使われているのも特徴のひとつになっています。いろいろなパターンがあるので、比べてみると楽しいと思いますよ。

鴨川湯のモザイクタイル
下鴨にある鴨川湯のモザイクタイル
呉竹湯のモザイクタイル
伏見の呉竹湯も美しいモザイクタイルが見られる銭湯だった。残念ながら昨年12月に廃業。

タイルにも流行り廃りがあり、近年は施工性もありモザイクタイルはあまり使われなくなっています。今秋オープンの「梅小路ポテル京都」の中にある銭湯「ぽて湯」でモザイクタイルが多用されているのを見た時には「おっ!」と思いましたね。

ぽて湯
2020年10月にオープンの「梅小路ポテル京都」内にある銭湯。ご宿泊のお客様だけではなく、ご入浴のみの方のご利用も可能。
ぽて湯のモザイクタイル
ぽて湯のモザイクタイル

ぽて湯は、ホテルの浴場でもあるのですが、非常に町の銭湯っぽいところもたくさんあります。カラン周りだったり、洗面器だったり、浴槽の周りの腰かけ段だったり……あまり言ってしまうと自分で見つける楽しみを奪ってしまうのでこれぐらいにしますが、ぽて湯を基準にすると、いろいろと違いが面白く見えてくると思います。

ぽて湯のカラン周り

若い力が原動力に。銭湯界で起こりつつある「地殻変動」

近年は銭湯ブームなんて言われますが、銭湯の軒数って、もう半世紀以上右肩下がりなんです。家風呂の普及によるライフスタイルの変化や設備維持にお金が掛かって儲からないことが大きな要因となり、銭湯を経営している家系以外から「銭湯をやろう!」と手を挙げる人が出てこなかった。

ところが2015(平成27)年に、当時24歳だった湊三次郎くんが、経営不振で廃業しかかっていたサウナの梅湯(京都市下京区)を引き継いだんです。彼は、銭湯を経営している親戚もいないし、もともとは一銭湯ファンの立場でした。でも、そこから「日本から銭湯をなくさない」「若者を銭湯へ」という思いを持って、銭湯業界に飛び込んできたんです。

サウナの梅湯
京都駅からも徒歩圏内にあるサウナの梅湯。お客さんは圧倒的に若い人が多い。

1年目は立て直しに苦労しましたが、今では全国に知られる人気銭湯に成長しています。皆さんの中にも、名前を知っている人は多いのではないでしょうか?湊くんは現在、梅湯グループの「ゆとなみ社」として、サウナの梅湯に加え、都湯、容輝湯(以上大津市)、源湯(京都市上京区)の計4軒を経営しています。さらに今年の9月からは東京の十條湯(東京都北区)の立て直しに弟の研雄くんが参加。経営者の家族と一緒に頑張っています。ゆとなみ社としてスタッフを派遣し、銭湯をコンサルティングする新しい試みです。

ゆとなみ社グッズ
「ゆとなみ社」グループの銭湯はハイセンスなグッズでも人気を集める。

そんな風にここ数年で、町の銭湯もやりようによっては再生可能であり外部からの参入もできる、実はポテンシャルのある場所なんだぞという空気が生まれています。銭湯に地殻変動が起こり始めているんです。京都以外でも外部からの参入はいくつかありますが、その地殻変動のトップランナーが、京都を拠点にする湊くんであることは、誰も否定しないと思います。

京都の銭湯はサウナ―も注目。ポイントは追加料金なし&天然地下水の水風呂

銭湯への追い風になっているものとして、ここ最近のサウナブームがあります。町の銭湯にサウナがあるところも多いです。さらに特筆すべきは、京都市内のほとんどの銭湯がサウナの追加料金を取らないこと。東京では入浴料以外にサウナ料金が数百円必要なところも多いなか、京都は過剰サービスといってもいいぐらいです。

そしてサウナと言えば水風呂がセットですよね。京都の銭湯は水風呂の気持ちよさも素晴らしいんです。秘密は「地下水」。京都は昔から水質のいい豊かな地下水が流れる土地でした。京都の銭湯の8割強がこの地下水を使っていて、一度入れば水質の良さは絶対にとりこになりますよ。これも銭湯の聖地と呼ばれる理由のひとつになっています。

サウナ愛好家の「サウナー」に人気の銭湯としては、白山湯高辻店(京都市下京区)はよく名前が出てきますね。サウナの温度が高めなのと、水風呂に天然地下水をザブザブ掛け流しているところがサウナ―の心を捉えるようです。

サウナの梅湯も、サウナブームを予見していたような店名でちょっとずるいですね(笑)。

銭湯+αの可能性は無限大。その広がりが銭湯を面白くする!

ぽて湯

これから銭湯は、ますます面白くなっていくと僕は思っています。

湊くんのような若い世代の積極的な動きにより、若いお客さんからの注目度も上がっています。特にゆとなみ社の銭湯のお客さんの年齢層の若返りは、特筆すべきものがありますね。

ここ数年、銭湯が広告的価値を持ち始めたところも、大きな変化です。昨年は京都ゆにくろのリニューアルオープンに際し、店内に銭湯をフューチャーしたコーナーが作られたり、湊くんが店内のポスターや小冊子に取り上げられたりと、広告業界からも注目される存在になりつつあります。

従来の枠をはみ出して、掛け合わせというか、プラスアルファの機能を銭湯が持ち始めているところも今後の発展を予感させます。ゆとなみ社の源湯に古書や雑貨を扱う「あきよし堂」などテナントが数店入っていたり……入浴だけではなく、プラスアルファを楽しむ場所としての可能性は、今後も広がっていくはず。現在は一部の銭湯でしかまだ見られないそれらの動きがこれからどう広がっていくのか、本当に楽しみです。

林宏樹(はやし・ひろき)
銭湯偏愛ライター。「京都に富士山のペンキ絵はないのか?」という疑問に端を発し、銭湯巡りを開始。京都府および滋賀県に現存する銭湯全てに入浴し、現在も2日に1度は銭湯に行くほどに銭湯を愛している。失われつつある風呂屋文化を次世代に受け継ぐべく、銭湯紹介サイト「お風呂屋さん的京都案内」やSNS等で日々お風呂屋さんの魅力を発信中。著書に『京都極楽銭湯案内』、『京都極楽銭湯読本』(以上、淡交社)など。

企画編集:光川貴浩、河井冬穂(合同会社バンクトゥ)
企画協力:林宏樹
写真:岡本佳樹、林宏樹

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