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旅慣れ人こそあえて!観光タクシーで寺社仏閣にもう一歩踏み込む上級旅ができるらしい

ヒラヤマヤスコ
ヒラヤマヤスコ
ライター

噂の広まり

井戸端会議

寺社仏閣、歴史的建造物、グルメ、銭湯、絶景、穴場……。観光コンテンツもりもりの都市・京都。市バスの番号とルートをそらで言えるくらいには京都に旅行しに来てます!って人もけっこう多い。

なかでも京都といえば、やっぱり寺社仏閣。市内の有名な寺社仏閣はだいたい行ったし、なにか新しい旅の方法を模索したい……そんな人に、観光タクシーがおすすめらしいんです。観光タクシーっていえばそう、タクシー運転手さんがガイドをしてくれて、市内の観光スポットを巡れるというアレです。

この観光タクシー、単に「観光地を貸切で回ってくれる」だけじゃなくて、運転手さんがガイドとしてめちゃくちゃ案内してくれるんです。京都の隅々までを知り尽くした運転手さんの知識量といったらそりゃもうすごい。自分では知ることができなかった穴場スポットに連れて行ってくれます。

春は桜、夏は新緑や花々、秋は紅葉、冬は雪……。今回は、京都の観光タクシー運転手のなかでも相当の知識量と情熱をもつふたりの運転手さんに、京都の東西南北でおすすめの寺社仏閣を聞いてみました。

この記事の内容ーエリア別コース紹介

【西コース】桜、紫陽花、松、紅葉。嵐山を抜けた先で出合う四季の風景

【南コース】車だからこそ行ける場所。山奥で貴重な仏像と密に向き合う

【北コース】大原は三千院だけじゃない。奥に隠れた古刹あり

【東コース】仏教とともに発展した比叡山エリア。庭と建築に連綿と続く歴史を思う。

有名どころの一歩先は穴場寺のホットスポット。西&南コース

ひとり目は、雅京都観光タクシーの安達義明(あだち・よしあき)さん。京都生まれの京都育ちで、中学生のころは愛宕山を登る速さを同級生と競いあっていたとか。京都検定取得者であり、プライベートでも寺社仏閣マニアとして全国を旅する、生粋の寺社&旅行好き。過去には一週間かけてひとりのお客さんの御朱印集めに付き合ったこともあるそうで、とことんお客さんに寄り添う姿勢がかっこいい。


お寺を訪ねて山道を2時間登ることもあるという安達さん。エネルギーと情熱にあふれています

【西コース】桜、紫陽花、松、紅葉。嵐山を抜けた先で出合う四季の風景

安達さん:私自身がもともと市内の西側で育ったということもあって、京都市西部の寺社仏閣は好きですね。平安時代のころから嵐山は貴族の別荘地だったことからもわかるんですが、西エリアには美しい山々に囲まれた穴場のお寺がたくさんあるんですよ。

そういう場所に行きたいお客さまをお連れする場合は、私の場合はまず、メジャーな場所からどんどん西側の山に入っていくようにしますね。嵐山の竹林をすり抜けて、洛西ニュータウンの西側へ入ります。

そのあたりでオススメしたいのは「勝持寺」「大原野神社」「正法寺」ですね。

勝持寺は天武天皇が勅命を出して創建した古刹です。通称「花の寺」とも呼ばれ、桜が美しいお寺です。


「平安時代の歌人・僧侶である西行法師ゆかりのお寺でして、桜を愛した西行は境内にたくさん桜を植えたと伝えられています。ここから、勝持寺は「花の寺」という呼び名もつきました」

花の寺でありながら、青もみじや紅葉もすばらしいお寺です

安達さん:西山にある「善峯寺」。西国第二十番札所の天台宗系の寺院です。ここは季節ごとの植物が美しくて。

春はやっぱり桜です。彼岸桜や山桜などの野趣ある桜が主体で、山寺一面に薄紅や白い花々が咲いているさまがなんとも美しいんです。またここには徳川家光の側室であり、5代将軍・綱吉の生母となった桂昌院みずからが植えた枝垂れ桜があり、圧巻ですね。

夏のころには紫陽花と、国の指定天然記念物に指定されている「遊龍の松」の緑が美しくなります。左右約40mほどに伸びた松が龍のように見えることからその名前がつきました。


斜面一面に咲き誇る約8000株の紫陽花。「遊龍の松」の迫力はぜひ実物で確かめて

そして秋は言わずもがな紅葉ですね。境内だけではなく山全体が善峯寺の敷地なので、山全体が真っ赤に染まるんですよ。赤い紅葉と、秋でも青々とした葉を茂らせる遊龍の松とのコントラストを楽しむのも一興です。

【南コース】車だからこそ行ける場所。山奥で貴重な仏像と密に向き合う

京都の南側といえば、東福寺から伏見稲荷にかけてのご案内や、ちょっと足を伸ばして宇治のほうまでご案内することもありますね。平等院、醍醐寺、三室戸寺などが人気です。そのエリアももちろん素敵ですが、タクシーという手段で観光されるのだったら、京田辺市や木津川市、相楽郡のほうまで行ってみるのもおすすめです。やはり車でないと行きにくい場所も多いので。

酬恩庵は別名「一休寺」とも呼ばれる呼ばれ、名前の通りあの「一休さん」、一休宗純が興したお寺です。元々は鎌倉時代のお寺が荒廃したままになっていたのを、子孫である一休宗純が再興したんです。苔むしたなかに延びる参道が美しく、桜はもちろんツツジやサツキ、楓など四季の植物が楽しめます。都会の喧騒から離れて、枯山水の庭を眺めながらのんびりしていただけますよ。

酬恩庵のあとはタクシーを南へ走らせて「蟹満寺」へ向かいます。ここはいい仏像がいらっしゃるんですよ。ご本尊の「釈迦如来座像」は、1300年前の飛鳥時代ににつくられ、日本の国宝に指定されています。国宝の仏像をすごく近い距離で拝観できるのが魅力です。

安達さん:「海住山寺」なんかもいいですね。山城町の山の中にあるので、頑張れば最寄りの加茂駅から徒歩でもいけないことはないんですが、車でのアクセスが便利です。海住山寺の見どころは国宝に指定されている五重の塔。緑に囲まれた山寺にそびえる丹塗りの五重の塔が、なんとも美しいですよ。紅葉のシーズンにもおすすめです。

そして、仏像がお好きならぜひ案内したいのですが、京都と奈良にまたがるここ一帯には「磨崖仏」がたくさんあるんです。磨崖仏とは、岩肌を削ってつくられた石仏のこと。浄瑠璃寺の奥の院などで見ることができます。

安達さん:最後に紹介したいのが、相楽郡の笠置寺。ここは京都府を代表する磨崖仏が彫られています。15mの巨石に弥勒磨崖仏なのですが、仏様の姿はなく光背(※ 仏像の背後にあって、仏身から発する光明を表現したもの)のみが残っています。


せり出すように建っていて、光背だけでも存在感が感じられます

穴場なだけじゃない。物語を知ると深みが変わる、北&東コース

ふたり目は、和(なごみ)京都観光タクシーの米田順吉(よねだ・じゅんきち)さん。室町近くの呉服屋出身で、寺社とそれを取り巻く風景の移り変わりをずっと見つめ続けてきたといいます。また、お仕事柄、写真を撮る機会が多いそうで、「床もみじ」ブームのずっと前から、お客さんの床もみじショットをよく撮ってあげていたなど、センスとアンテナの高さはピカイチ。


上記2枚の写真は米田さん撮影。1枚目は高野山の金剛峯寺、2枚目は大河内山荘で撮影したものだそう

取材後、「紅葉は逆光に映えますから、西側の紅葉は朝早く、東側の紅葉は夕方に行くといいですよ」と、役立つアドバイスまでいただいてしまいました

【北コース】大原は三千院だけじゃない。奥に隠れた古刹あり

米田さん:京都の北側に位置する寺社仏閣といえば、やはり三千院をはじめとする大原周辺に名刹がありますね。アクセスも京都バスしかないので、観光タクシーを使って便利に来ていただきたいです。

しかし、いきなり山道に入ってももったいないので、もう少し市内中心地……とはいえ公共交通機関では多少アクセスしにくいお寺をまずはご紹介したいですね。紅葉のシーズンでいえば「実相院」とか。岩倉実相院は皇族・公家が住職を務める「門跡」と呼ばれる寺院で、狩野派による見事な襖絵が楽しめます。

あと「実相院」といえば黒光りする床板に紅葉が映り込む光景そのものを楽しむ「床もみじ」が有名ですね。新緑がしげる初夏と、葉が赤く染まる秋に見ごろを迎えます。いまでは文化財保護のために立ち入り禁止になっていますが、当時はもみじが映る床まで入ることができたんですよ。

大原方面へ向かって車を走らせるのですが、大原へと向かう国道367号線は、昔の鯖街道にあたります。その昔、福井の若狭から京の都に向かって塩漬けの鯖が運ばれていたルートですね。昔、若狭宿のほうまでお客様をご案内したことがありました。そんな話をしているうちに大原につくのですが、大原といえば京都を代表する漬物、柴漬けに欠かせない赤紫蘇の産地です。夏のころには車窓から赤紫蘇の畑が見えて、季節を感じることができます。

大原といえばもっとも有名な三千院に行く方が多いと思うのですが、人に知られるようになったのは、歌謡グループのデューク・エイセスが「女ひとり」という歌で三千院を歌ったことがきっかけだったと言われています。「京都〜、大原、三千院」という歌詞があまりに有名ですよね。もちろん三千院も美しいですが、もう少し北側にある「宝泉院」「勝林院」などは、三千院には行ったことがことがあるけど……という人におすすめですね。

また大原の奥にある「寂光院」もいいですね。寂光院は聖徳太子が建てたといわれているんです。聖徳太子といえば飛鳥時代。現代でもなかなか簡単にアクセスができない場所に、そんな時代にお寺を建てたというのは、当時の人々の信仰心をうかがい知るきっかけになりますよね。ここは、源平の戦いに敗れたのち、平清盛の娘である建礼門院が隠棲した場所としても知られています。当時は夫である高倉天皇の父・後白河法皇が訪ねてきたりもしていたようです。彼女の身を案じてはるばるやってきてくれたことへの驚きは相当だったんじゃないでしょうか。

そして367号線をさらに福井側へと走らせたところにある「古知谷 阿弥陀寺」。ここは間違いなく穴場ですね。地図を見てもらえたらわかると思うのですが、山の中にポツンとあるお寺です。


「都会の喧騒から離れた山寺の境内には数百本の楓が植えられていて、紅葉シーズンは壮観ですよ」

米田さん:また、ここだけの見どころとして、創建した弾誓上人が自作した自身の像が安置されているのですが、弾誓上人の髪が像に植えられているんです。当時ほど残っていないのですが、今でも像の両耳にそれを見ることができますよ。

【東コース】仏教とともに発展した比叡山エリア。庭と建築に連綿と続く歴史を思う

米田さん:京都の東側をご案内する際、私の場合は滋賀まで足を伸ばすのもおすすめしています。やはり外せないのは比叡山・延暦寺。山科から滋賀に入っていくつかの寺社をご案内した後に、ぐるりと比叡山をまわる形で比叡山をゴールとするようなルートですね。

米田さん:それだけでけっこう時間が経ってしまうのですが、早朝に出発して閉門ギリギリまでまわりたいというお客さまには、ここからさらに北ルートを合体させて、大原に向かう場合もあります。

京都の東側は八坂神社や南禅寺など、比較的電車や徒歩でもアクセスの良い寺社仏閣が多いですね。それでいえば、将軍塚の上にある青蓮院の門跡「将軍塚青龍殿」は、ロードバイクなどの自転車をのぞいて車で行くしかないような立地です。


よく晴れた日には京都市だけではなく大阪方面まで一望できる、京都市内では数少ない景観スポット

米田さん:秋の季節には山科の名刹、毘沙門堂などもご案内したいですね。参道が紅葉で真っ赤に染まる様は本当に見事です。

そのまま滋賀へと抜けて、おすすめなのは「三井寺」。重要文化財である仁王門が出迎えてくれるのですが、仁王門の前には桜が植えられていて非常に美しいんですよ。金堂は安土桃山時代の建築です。

坂本にある「西教寺」もいいですね。小堀遠州がつくった庭があり、見どころのひとつになっています。また、ここは明智光秀ゆかりのお寺でして。織田信長による延暦寺焼き討ちのあと、光秀が寺の復興に尽力されたといわれています。お寺の中に、光秀一族の墓もあります。去年はちょうどNHKの大河が光秀を主人公にしていたこともあって、行ってみたいという人が多かったですね。

お寺ではないのですが、滋賀には安土桃山時代に寺社や城郭の石垣づくりに関わっていた「穴太衆」という石工の集団がいたんですね。比叡山高校のすぐそばには、穴太衆がつくった石積みが残っているんです。自然石を削らずにそのまま積み上げられているのが特徴で、安土桃山時代の建築技術をいまに見ることができます。車で走りながら、そういったところも紹介したいですね。

そこからは山中越えを通って比叡山延暦寺へご案内します。やはり延暦寺は京都の東側のスポットとしては外せません。根本中堂には、天台宗の開祖である最澄が自らつくったという本尊薬師如来像がと、1200年以上灯り続けている「不滅の法灯」があります。

浄土宗や日蓮宗など、現在にも続く宗派の開祖たちはみんな、延暦寺で修行をしていました。そういう意味では、日本の仏教は延暦寺があったからこそ発展したと言っても過言ではありません。歴史の流れなども解説しながらご案内するので、連綿と続いてきたものに思いを馳せていただきたいですね。

タクシー運転手が語る京都旅行の魅力とは

長年、京都の各所を案内してきたおふたり。日ごろから新聞や雑誌、書籍などを読んで情報収集はかかさないそうです。さらに、乗せたお客さんからも新しい情報を得ることもあるそう。


安達さんの鞄には書店では見かけない書籍がたくさん。仏教書専門の書店などに行って入手するそうです

米田さんの愛読本。中央の京都『観光案内資料』(個人観光タクシー協会)は非売品。京都の情報が網羅されたマニア垂涎の一冊……

安達さん「少し前は『刀剣乱舞』のファンのお客さんがたくさんいらっしゃったので、その方々から教えてもらうこともありました。また以前、一週間みっちりご朱印帳集めにお付き合いしたことがありますね。遠方のお寺を中心に1日10件以上ご案内したんですが、ほとんどが観光寺院じゃないところだったので勉強になりましたね」

案内するにはその場所の知識が不可欠。しかし歴史的な寺院であっても、住職が代替わりしているなどの理由で、いわれがわからないこともよくあるそう。だからこそ、書籍などで情報を得るだけではなく実際に足を運ぶことが大事だと米田さんはいいます。

情報の蓄積を欠かさないプロフェッショナルの姿勢によって、楽しさを享受できる観光タクシーでの旅。最後に、京都旅行の魅力を聞いてみました。

安達さん「事前にヒアリングもするのですが、お客さんによっては何箇所か、アドリブで提案するのもあります。それだけ京都はコンテンツが豊富な街。紹介してもしてもしきれません。車でないと行きにくいスポットもたくさんあるので、うまいこと観光タクシーを利用してほしいですね」

米田さん「最初は修学旅行生で、大人になってからはパートナーと、家族づれで。そして熟年の世代になっても。京都は何回来ても楽しめるのが魅力です。お客さまのわがままをどれだけ叶えてあげられるかが観光タクシーの運転手の心得。ぜひ利用してほしいと思います」

取材中、ここには書ききれないほどのスポットやトリビアを教えてもらい、京都に住んでいても観光タクシーに乗りたくなってしまいました。おふたりのタクシーで京都を観光したいという方は以下から予約を。人気ドライバーさんのため、早めの連絡が安心です。

安達さん:雅京都観光タクシーHP
米田さん:和京都観光タクシーHP

※ドライバー一覧にお名前が記載されていない場合も枠が空いていれば指名可能。

記事に登場した全スポットはこちら。

企画編集:光川貴浩、河井冬穂、早志祐美(合同会社バンクトゥ)
現地写真:https://photo53.com/