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噂の京都とあの人_vol.1

【噂なあの人】「ほぼ写真」な作品を生み出す刺繍画家が京都にいるらしい

「ポmagazine」編集部
「ポmagazine」編集部

噂の広まり

殿堂入り

京都にゆかりのあるクリエイターの視点や感性から京都観光のヒントをもらう連載「噂なあの人と京都」。

第一回は、作品を発表するたびに「リアルすぎる」と反響の声が上がる刺繍画家・ipnot(イプノット)さんに、お話を聞きました。

「フレンチノットステッチ」と呼ばれる技法を用いて表現された作品は、色とりどりの結び目が緻密な陰影を作り、まるで点描画のような繊細さ。2017年に制作された京都・鷹峯の仏教寺院「源光庵」の紅葉をモチーフとした作品も、少し見ただけでは写真かと勘違いしてしまうクオリティです。

今回「ポmagazine」編集部では「ipnotさんが京都の出町柳にアトリエを構えているらしい」という噂をキャッチ。

「京都は創作への情熱を支え、ときには癒しを与えてくれる」というipnotさん。その目に映る京都の街の姿を、5つのキーワードと作品写真でお届けします。

ipnot(イプノット)さん
刺繍画家。フレンチノットステッチによる作品がSNSやメディアを通じて国内外で注目を集める。最近では立体的な「3D刺繍」が大きな話題に。

HP:http://www.ipnot.info/
Twitter:@ipnot
Instagram:@ipnot

キーワード① 源光庵「悟りの窓」

ipnotさんの作品は「フレンチノットステッチ」という技法で作られています。通常は動物の目や花の中心といったパーツにワンポイントで使われる手法ですが、ipnotさんの場合、用いるのはフレンチノット「だけ」。いわば「粒だけで縫う刺繍」です。

源光庵「悟りの窓」の刺繍も小さな糸の粒が集まることで可能になる色の濃淡の表現が生かされた作品のひとつ。

源光庵「悟りの窓」から見える紅葉の風景
2017年に制作したという源光庵「悟りの窓」から見える紅葉の風景

写真だと言われたら信じてしまいそうですが、よく見ると糸の粒がギュウギュウに詰まっていることがわかります。

源光庵「悟りの窓」
「使った糸は全部で20色くらいかな? これは500円玉サイズなんですけど、また機会があれば大きいサイズで、もっと凝ったものを作りたいですね」とipnotさん。

モチーフになった「悟りの窓」があるのは、京都・鷹峯にある寺院「源光庵」の本堂。「大宇宙」を表現しており、春夏秋冬それぞれの彩りを切り取ります。その隣には「人間の生涯」を象徴する角窓「迷いの窓」も。源光庵は庫裏改修工事のために2019年から拝観が中止されていましたが、今秋に拝観再開予定とのことです。

源光庵:https://genkouan.or.jp/

キーワード② 出町桝形商店街

ipnotさんが出町柳にアトリエを構えたのは今から1年前。その決定打となったのが「出町桝形商店街」にある一軒の古本屋さん。

「内覧をした帰りに寄ったんですけど、偶然にもそこでずっとほしかった本を見つけて。舞い上がった気分でそのまま契約しちゃいました」

出町桝形商店街は、京都御所の北東にある商店街。全長164mのアーケードの下には八百屋や精肉店、衣料品店など地域の人が買い物に訪れる店が並ぶと同時に、古本屋や映画館・カフェ・書店の3つの顔をもつ「出町座」など、カルチャースポットが軒を連ねています。

ipnotさんのお気に入りはドーナツ屋の「きんぞう」 。豆乳とてんさい糖のやさしい味わいにホッとする、一息つきたいおやつタイムにぴったりの美味しさですよ。

出町桝形商店街:http://masugata.demachi.jp/
きんぞう:http://masugata.demachi.jp/contents/tenpo/higasi/kinzo/kinzo.html

キーワード③ 「出町ふたば」の豆餅

刺繍以外では食べることが何より大好きというipnotさん。刺繍のモチーフにすることも多く、食べ物を縫うときには、「普段以上に熱中してしまう」そう。刺繍にしてみたい京都の食べ物を聞いてみたところ、「『出町ふたば』の豆餅(豆大福)ですね」というお返事が。

豆大福
2015年制作の「豆大福」。

「大福がもともと大好きなんです。ふたばの豆餅に出合って、これはぜひ作品にしたいと思ったんですけど、2015年にもう豆大福を縫っちゃってて。キャラが被るので、ちょっとまだ縫えてないですね」

豆餅を求めるお客さんでいつも行列ができている「出町ふたば」。ipnotさんによると狙い目は「朝8時半に開店してすぐ」だそうですが、早く着きすぎるとまだ商品が並んでいないこともあるそうなのでタイミングは注意、とのことです。

キーワード④ 鴨川

ひたすら結び目を作り、敷き詰めていくフレンチノット刺繍。10円玉大の作品を作るのにも3日はかかり、大きなものだと2ヶ月かかることも。地道な作業にはリフレッシュが必須、ということで、ipnotさんは「鴨川」をよく散歩するといいます。

「アトリエのすぐそばにあるので、散歩したいなって思ったらすぐに出かけています。外に出られない時でも窓を開けてたら、鴨川で音楽の練習をしている音が聞こえてきたり、それだけですごくリラックスできますね。あとは屋上から眺めたりとか……川が近いのって素敵だなあと感じます」

指先に満開の桜
2020年制作。指先に満開の桜。

春には桜名所にもなる鴨川。京都に住む人の間では、出町柳の「鴨川デルタ」から上流が、ゆっくりと桜を楽しめるおすすめコースとして知られています。

キーワード⑤ コーヒー

コーヒー
2018年制作のコーヒー。まさかの3D仕様で大きな話題に。

京都に来るようになり、喫茶店や珈琲店の「数」と「質」に驚いたというipnotさん。

「喫茶店が多いよとは聞いていたんですけど、まさかこんなにあるとは思ってなかったですね。しかもただのコーヒーじゃなくて、すごくいいコーヒー、スペシャリティコーヒーを置いてるところが出町柳だけでも3軒、4軒くらいあって、えっ、そんなに! って。それだけこだわっているお店があちこちにある地域って、京都以外だとちょっと聞いたことないかもしれないです」

そんなipnotさんがひと息つきたい時に訪れるというお店が、オオヤコーヒー焙煎所のファクトリーワークス「FACTORY KAFE工船」。京都のコーヒー好きであれば誰もが訪れる人気店です。コーヒーの味わいが間違いなしなのはもちろんのこと、落ち着いた雰囲気も最高。アーティストグループ「ダムタイプ」がかつて拠点にしていたアパートメントの2階に広がる空間は、ipnotさんいわく「何時間でもいたくなる居心地の良さです」。

コーヒー以外には紅茶やワイン、フードメニューもあり、ipnotさんも時々パンデピスやナッツなどを盛り合わせた「コーヒーのためのひと皿」を頼むそう。楽しくおしゃべりをする、というよりは「本当に美味しいコーヒーを落ち着いて楽しみたい」という方にオススメのお店です。

FACTORY KAFE工船:https://ooyacoffeeassociees.com/navi/kafekosen/

偶然出合った街が今では大好きな街に

「部屋を探し始めた時は、全然京都に絞ってはいなかったんです。とにかく静かで緑の多いところと思っていて……。たまたま見つけた場所ですけど、以前に比べてすごく気持ちよく過ごせています」

そう話すipnotさんに、「とはいえ『ここはちょっと……』と思うこともあるんじゃないですか?」とちょっと意地悪な質問をしてみたところ……「夏はジメジメしてるとか、冬は痛いぐらい寒いとか聞いてたんですが、ほとんど気にならないですね。あとは近所の方もすごく優しくて。いい印象のままです」とのこと。創作のインスピレーションをもらえるスポットから肩の力を抜いて楽しめるスポットまで、丁寧な目線でのご紹介、ありがとうございました!

ipnotさんの「気になるウワサ」

「噂なあの人と京都」の記事では、登場したクリエイターに「気になっている京都のウワサ」を教えてもらっています。ipnotさんがいま、気になっている噂は?

「京都市の美術館が新しく「京都市京セラ美術館」としてオープンしたって聞いて、落ち着いたら行きたいなあと思っています。ライトアップイベントには行ったんですけど、中にはまだ入れていないので……噂によると内装の進化が絶妙とのことなので、早く見てみたいです!」

企画編集:河井冬穂(合同会社バンクトゥ)
写真提供:ipnot