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しばらくのあいだ、外出や旅行を自由に楽しむことができない日々が続いています。
先行きを予測することが難しい状況ですが、
事態が終息し、ふたたび楽しくお出かけできる日が来ることを願って。

「ポmagazine」では、お家でも楽しめる記事を中心に、
皆様の生活にすこしでも癒しや明るさをお届けできるよう、
京都の情報を発信していきたいと思っています。

「ポmagazine」編集部

野崎将太さん_サムネイル

工事現場にDJ、屋台にミラーボール。関西発“ネオ大工”の仕事が異彩を放っているらしい

「ポmagazine」編集部
「ポmagazine」編集部

噂の広まり

お祭り騒ぎ

2019年、愛知県で開催された人気フェス「森、道、市場」最後の夜。砂浜の上に、フードや雑貨、ライブハウスなど、各地方のトップクラスともいえる店舗のブースが立ち並ぶ中にひとつ、一際多くの人を集めるブースがあった。少し変わった形状のそれは、福島県の酒蔵「仁井田本家」のブース。酒が入ったバスタブの上にミラーボールが輝き、その光の下に続々と人々が集まる光景は「森、道、市場 」のフィナーレとして強く目に焼き付いている。

「仁井田本家」ブース
最後まで人が集まっていた「仁井田本家」ブース。その様子はさながら「夜の同窓会」。

京都に戻ってから驚くべき話を聞いた。仁井田本家のブースを手がけた人物が、なんと関西で活動しているという。その人の名は、野崎将太さん。今、関西の若手建築シーンを牽引するクリエイターの一人だ。京都でも彼のチームによって作られた空間が次々と誕生しており、その仕事ぶりがジワジワと話題を呼んでいるとのこと。インタビューを通じて彼の仕事に迫るとともに、京都の「いけてる空間」ガイドを依頼したところ……飛び出してきたのは「建築現場」というワードから想像される光景とはまったく違う現場の様子、そして、マニアックすぎる(?)京都の空間の鑑賞ポイントだった。

この記事の内容

1.街と共犯関係を結ぶ、“ネオ大工”の建築スタイル

2.野崎さん的・京都内装ガイド①
「日本一うまい」⁈ 四条烏丸近くのブリトー屋「QUÉ PASA(ケパサ)」

3.野崎さん的・京都内装ガイド②
リニューアルオープンした烏丸御池の注目スポット「新風館」

4.野崎さん的・京都内装ガイド③
府内外から注目を集めるカルチャーの発信地 四条烏丸近くに佇む「VOU/棒」

5.野崎さん的・京都内装ガイド〈番外編〉
「三文オペラ」の世界観を再現 「吉田寮大演劇屋台村」

6.建築を開き、街をおもしろくする。野崎さんが作る、京都のこれから

野崎将太さん

野崎将太さん
大阪、神戸、京都を主な拠点に、店舗・住宅の内装工事等を手がける。建築集団「々(ノマ)」を主宰。文化住宅を舞台にパフォーマンスを行う「前田文化」のメンバー。

野崎さんInstagram:@shotanoza
「々」Instagram:@nomaarchitecture

街と共犯関係を結ぶ、“ネオ大工”の建築スタイル

野崎さんを肩書きで語ることは難しい。既存の枠組みに当てはめるのであれば「大工」と呼ぶのかもしれないが、野崎さん自身、自らを「大工」と捉える感覚は薄い。おもしろいのは、お客さんである施主との関係性。話を聞いていると、間には共犯者ともいえる関係性が結ばれていることがわかる。

「内装や建築物によって何を実現したいのかっていうのを一緒に考えながら作っていく。お客さんによっては、何をしたいかもわかりません、っていうところからスタートすることもあります。この街を盛り上げていきたいから、とりあえず、しょうきっちゃん来てくれない?とか」

清荒神_1
清荒神_2
依頼によっては作る過程そのものをイベント化することも。この写真は、宝塚・清荒神の街を盛り上げることを目的に、1ヶ月間、店を作る様子をイベントとして公開し続けた時のもの。

「共犯関係」は街との間にも及ぶ。野崎さんのチームが関わる現場は、その「開かれっぷり」が大きな特徴のひとつ。建築現場には付き物の養生シートはなし。すべては街に公開した状態で行われる。

「僕たちの現場は誰でも遊びにきていいし、作業に参加したかったらしてもらっていいんです。終わったあとには、街の人たちとビールを飲みたい。どうやって作っているのか、隠す必要はないと思っています。むしろ職人の仕事はどんどん見せていきたい」

現場を街に開く姿勢の背後には、野崎さんの建築に対する考え方がある。

「僕がずっと思っているのは、作り手こそ街のことを知っておくべきだということです。周りにどんな店があって、どんな美味しいもんが食べれて……とか。街を体感しながら作業を進めていく。だから現場中のお昼ご飯も、大工のみんなで近所のお店に食べに行ったりっていうのをよくやります」

よい建築、よい内装は、街や人の文脈から切り離されては存在し得ないということか。「過程を開く」という姿勢は、作業をするメンバーの様子が公開されている野崎さんのSNSからも感じられる。

野崎さんインスタグラム写真_1
野崎さんインスタグラム写真_2
野崎さんのインスタグラム上で公開されている、実際の作業現場にて撮影された写真。

「今こういうメンバーでやってるよって公開していると、友達やお客さんである施主が『俺もペンキ塗ろうかな』って来てくれたり、拡散された投稿を見た人から『京都にいるならこっちの店も相談があんねんけど』っていう相談とか、おもしろいハプニングがたくさん起きるんです。近くに住んでる子が現場に来て、『私うどん打つのが得意やから、うどん打つわ』みたいな。現場を見せてることによって、どんどん人が入ってくる」

出入り自由な建築現場。にわかには信じがたい話だが、公開されている写真を見ると不思議と納得がいく。見た人に「自分も加わりたい」と思わせる雰囲気に満ちているのだ。実際、現場の空気にはこだわっていると野崎さんは語る。そのひとつが、現場に流す音楽だ。

「そんときにいるメンバーで、一番音楽好きなやつとか、『今この曲かけたい』って強く思ってるやつが流すんですよ。現場ごとにDJがいるんです(笑)。現場では気持ちいい曲をかける。そうするとみんな現場を好きになるし、自然と人が集まってくるんです」

確固たるこだわりを持ちつつも、野崎さんは自身のスタイルを「建築業界の隅っこ」と形容する。

「日本の建築って、囲いを建てて、いろんな業者さん、職人さんが集まって分業して、できるだけ早く仕上げるのがメジャーなやり方だと思うんです。ただ自分たちならどうやっていいものを作るか、どうしたら街を知ることができるかって考えたら、囲いをすると人が集まらないし、いい音楽がかかってるところには人が集まってくるしというところに行き着いただけ。これが主流になるとはあまり考えていないです。僕らのやってることは、建築業界の本当に隅っこなんですよ」

野崎さん的・京都内装ガイド①
「日本一うまい」⁈ 四条烏丸近くのブリトー屋「QUÉ PASA(ケパサ)」

実際に京都で手がけた空間や、注目しているスポットについても教えてもらった。ひとつめは四条烏丸近くに店を構える「QUÉ PASA Downtown(ケパサダウンタウン)」。アメリカで育ったという店主が本場の味を再現したというブリトーは、野崎さんも「日本一」と太鼓判を押す美味さだ。

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神宮丸太町に本店があり、四条烏丸近くのこちらは2号店。店主が野崎さんの友人だったことから声がかかったそう。

「ちょっとしょうきっちゃん作ってよって相談を受けて、物件を見に行って。どこを壊すか。どこにカウンターを置くか……。どんなスタイルのお店をやりたいかっていうことを聞きながら、友人の設計士と3人でオープンまでの構想を一緒に話して。最初から関わった場所なので、思い入れは一際あります」

店主との作戦会議の末に出来上がった空間は、肩肘張らない「ジャンキーさ」が魅力。

「ブリトーの美味さってのは、ファストフードとしての、ジャンクな味っていうところにあるんだっていうのがコンセプトですね。自転車に乗りながら食べるくらいがちょうどいい、くらいの。そういう話から出来上がった内装です」

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カジュアル&ジャンキーな空間には「ガッと食べてパッと出る」スタイルが似合う。

じっくりと腰を据えて楽しむことはあまり想定されていないため、野暮な質問かも……と思いつつ、内装の鑑賞ポイントを聞いてみた。すると、なんとも「細かすぎる」回答が。

「奥にあるカウンターの後ろの壁が、ツルッツルなんですよ。僕のイチオシです。」

まさか、壁の手触りがポイントとは。しかし詳しく聞けば、その裏には職人へのリスペクトがあるとわかる。

「八田人造石(ハッタジンゾーイシ)さんっていう左官職人の仕事なんです。左官というのは壁を 漆喰や土、モルタルなどで塗ることを指すんですが、彼の場合は左官を追究しすぎた結果、石で壁を磨き始めたっていう……なかなかにハードコアな存在なんですよね。ここの壁も彼が磨いてるんでピッカピカです」

八田人造石さん
ケパサの壁を磨く、左官職人の八田人造石さん。

カウンターの奥とあって簡単には触れられないが、野崎さんいわく「トイレに行く途中に、1カ所だけ触れるポイントがある」とのこと。四条烏丸からすぐとアクセスも抜群の「QUÉ PASA(ケパサ)」。ツルツルピカピカの壁と「日本一美味い」というブリトーが気になる方は、ぜひ足を運んでみてほしい。

ケパサ:https://www.facebook.com/quepasa.burrito/

野崎さん的・京都内装ガイド②
リニューアルオープンした烏丸御池の注目スポット「新風館」

続いて野崎さんが挙げたスポットは、京都・烏丸御池の「新風館」。

2020年6月にリニューアルオープンし、隈研吾によるデザイン監修や、アジア初上陸の「エースホテル京都」の出店など、いま京都でもっとも話題を集めるスポットのひとつだ。野崎さんが注目しているのは開放感あふれる中庭か、はたまた和の空気を醸し出す木組みか、と思いきや……。

「1階に『OyOy(オイオイ)』っていう『本と野菜』をテーマにした店があるんですが、そこのカウンターの手触りですね。ここの天板がね、ツルツルなんですよ」

まさかの「カウンターの感触」推し。

OyOy
「OyOy」はオーガニック農産物を扱う『坂ノ途中』、書店「かもめブックス」、本棚の専門店などを展開する『鴎来堂』のコラボ店舗。設計を野崎さんの友人が手がけている。

じつは、この天板を手がけたのは「QUÉ PASA(ケパサ)」の壁を磨いた職人と同一人物。「ハードコア左官職人」八田人造石さんだ。

「これ、本当にめっちゃ凄いんですよ。マニアックすぎて伝わりづらいと思うんですが……。八田人造石さんの作品がこんなに近い位置に2つもあるっていうのは滅多にないと思います。ぜひ、触り比べてほしいです」

「僕が作ったわけじゃないけど、みんなに伝えたいですね」と、野崎さんは熱弁する。壁ときて、天板。それだけ聞くと随分マニアックに感じられるが、「建築業界の隅っこ」で革命を起こす野崎さんだからこそ共鳴できる、ハードコアな情熱が凝縮されていると分かれば、きっと皆さんも見る目が変わるはずだ。

新風館:https://shinpuhkan.jp/

OyOy:https://shinpuhkan.jp/shops_restaurants/oyoy/

野崎さん的・京都内装ガイド③
府内外から注目を集めるカルチャーの発信地 四条烏丸近くに佇む「VOU/棒」

次に紹介するのは、京都精華大学出身のオーナーが運営する「VOU/棒」。一捻り効いたオリジナルアイテムや、京都を拠点とする若手アーティストの企画展など、京都のアートカルチャーを多面的に発信するギャラリー&ショップだ。

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元印刷所を改装した3階立ての建物は「棒ビル」と呼ばれる

もともとは四条の路地奥で運営されていたが、2019年に現在の場所に移転。メインの施工事務所による大方の施工が終わった頃に、「VOU/棒」オーナーの川良さんから野崎さんに声がかかった。実際の運営に踏み出していく過程で細かい改良が必要になり、友人でもある野崎さんに話がきたという。

「川良くんから『ここにもっと壁がほしい』とか『今度の作品を展示するために台が必要だ』とか、実際オープンしてから見つかった課題に逐一対応するのが、この仕事での僕の役割ですね。今も少しずつ手を加えています」

きめ細かくスピーディーな対応からは、フットワークの軽さとお客さんである施主の立場に寄り添う姿勢が感じられる。

「その場でアイデアを聞いて、どんどん壁やスロープを増やしてきました。『床もうちょっとこうしたいんよな』って言われて、『OK、行くわ』みたいな」

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内装は、もともとの建物と新たに手を加えた部分の境界をあえてぼかすように作られている。

最近の事態を受けてしばらく休業していたが、この8月に営業を再開した「VOU/棒」。訪れた際には作品や販売アイテムはもちろん、それらが輝くための「縁の下の力もち」的存在として、壁や床、展示台などの内装にも注目したい。

VOU/棒:http://voukyoto.com/

野崎さん的・京都内装ガイド〈番外編〉
「三文オペラ」の世界観を再現「吉田寮大演劇屋台村」

最後にご紹介するのは、京都大学の学生寮である「吉田寮」にて開催された「吉田寮食堂大演劇」の屋台村。劇団子供鉅人が主催する演劇イベントの一環として、吉田寮前に作られた屋台村を手がけたのが野崎さんだ。

吉田寮大演劇屋台村_1

残念ながらイベント自体の開催は2019年の頭ということで、いま足を運ぶことは叶わない。しかし野崎さんが作り出した空間がもつ「人を惹きつける力」が存分に発揮された場所であること、そして野崎さんの京都での初仕事でもあることから、ぜひとも紹介させていただきたい。

吉田寮大演劇屋台村_2
スラム街を舞台とした「三文オペラ」の世界観を反映。

演目「三文オペラ」の世界観に合わせ、闇市のような雰囲気が実現された屋台村。

「『三文オペラ』はドイツの戯曲で、ちょっと荒れた街のイメージなんです。その雰囲気には屋台村で、たくさん人が飲んでる風景が合うからってことで依頼をもらって」

雑多で活気ある空気に惹かれ、当日は多くの人が訪れたという。空間そのものにとどまらず、多くの人が思わず足を踏み入れたくなる空気まで作り出す。野崎さんが「ネオ大工」たる理由のひとつだ。

建築を開き、街をおもしろくする。野崎さんが作る、京都のこれから

現在、野崎さんは西陣に拠点を構えているという。友人であり、時には一緒に仕事をすることもあるというメンバーとシェアハウスしている家は、2019年秋、長屋を自分たちの手で改装したもの。露天風呂あり、キッチンの上にミラーボールありと、遊び心に溢れた空間だ。

西陣のシェアハウス
西陣シェアハウス改装中の一枚。奥に小さく見えるのが露天風呂。

西陣に拠点を構えて以来、京都における野崎さんの活動はますます広がりを見せている。その舞台のひとつが、二条城の南東に誕生した「共創自治区SHIKIAMI CONCON」。長屋とコンテナが融合した施設には、クリエイター系のオフィスやショップが入居している。クリエイティブ界隈を大いに騒がせた「CONCON」プロジェクトは、ハード面もソフト面も現在進行形で発展中。入居している事務所が施設のポテンシャルをより活かせるよう、野崎さんが改装に関わる一室もあるそうだ。

「CONCON」改装中_1
「CONCON」改装中_1

さらにこの夏からは、崇仁新町の仕掛人・小久保寧さんと共に、五条七本松でのプロジェクトもスタートさせるとのことで、京都のカルチャーシーンにおいて野崎さんの存在感が高まっていることは疑いようがない。ともすれば「ザ・イケてるクリエイター」的存在に映る野崎さんだが、自身の中の軸足は、必ずしも「かっこいい仕事をする」という部分には無いようだ。

「かっこいいものを作ることについても、もちろんどんどん追究したいと思っています。ただ、それ以上に、作業中の段階から街との接点を作ったり、お客さんには実際に解体現場にいて相談しながら作っていったり、そういうことを大切にしたい。あとは僕ら自身が現場を楽しむこと。作った人間がその場所の一番のファンになれたら最高じゃないかな」

野崎さんの芯には、建築を通じ、街や人とポジティブな関係を結ぼうとする姿勢がある。開かれたものとして建築を発信し、過程すらも活かしながら街をおもしろくしていく野崎さんの仕事が、これからの京都をどう進化させるのか。まずは五条七本松でのプロジェクトから、新たな発信を楽しみに待ちたい。

企画編集:光川 貴浩、河井 冬穂(合同会社バンクトゥ)
写真提供(敬称略):野崎 将太、岡田和幸、武田唯、栗原徹、奥田達郎、國重裕太