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島原大門のあたりで、サボテンから服をつくる二人組がいるらしい

島原大門のあたりで、サボテンから服をつくる二人組がいるらしい

「ポmagazine」編集部
「ポmagazine」編集部

噂の広まり

独り言

「持続可能な」という意味をもつ「サステナブル」という言葉。最近、とみに聞くようになったが、京都という町では新しくもあり、古くから付き合ってきたようにも感じる。

近年の京都でいうと、個包装をしない「量り売り」のスーパーマーケット「斗々屋」が現れたことは、サステナブルな噂として瞬く間に広がった。他方、その言葉が登場するはるか前から、老舗和菓子屋が余った菓子のハジを「お得用」として販売するような“もったいない精神”は京都の日常にあふれている。

日々、これが環境にいいらしい。あれが資源になるらしい。なんて噂が飛び交うなかで、編集部が気になったのが、ポテルのすぐ近くにある「offsʌɪt studio(オフサイトスタジオ)」というアパレルブランド。京都・島原でゲストハウスを運営する村上拓司さん、オヌル・チャムルジュさんのおふたりがはじめたブランドで、サボテンを原料とする「サボテンレザー」をはじめ、環境負荷の少ない素材を使い、その循環までを設計したアイテムを展開している。

サボテンレザーのトートバッグ
メキシコで自生するノパルサボテンが原料の「サボテンレザー」を使用したトートバッグ

時代の流れとともにますます注目が集まるサステナブルというテーマのもと、京都で活動を行うおふたりにお話を伺った。

村上さん・オヌルさん
〈プロフィール〉
村上拓司さん(写真左)、オヌル・チャムルジュさん(写真右)
2017年に京都・島原でゲストハウス「hachi」を開始。自身らのこれまでの経験や、海外のゲストとの交流を通じて環境問題に興味をもち、サステナブルな領域での新たな事業構想を練る中で2020年、「offsʌɪt studio」を立ち上げる。
https://offsaitstudio.com/ja

ものの一生を設計する、循環のデザイン

offsʌɪt studioでは、環境負荷の少ない素材を使うことはもちろん、商品がいかに循環するかを設計しているというが、どのようなプロセスで商品が出来上がるのだろうか。

「一番最初は、素材から入ったんですよ。リサーチをしていてたまたま見つけたのが、サボテンレザー。これで何がつくれるのかというところからはじめました。コートなどのアパレル商品に関しては、外部のデザイナーさんにも入ってもらい、お話しながら一緒に形にしています。そのなかで話に挙がったのが、サステナブルな素材って、今ではZARAのようなファストファッションのブランドでも取り入れているくらい、どこにでもあるようになってきたんです。ひとつのブームというか。でもブームで終わるだけだと意味がないから、商品を販売した後のことをどこまで考えていけるのかが大事だなと。それで“循環までをデザインする”という今のコンセプトに行き着きました。」

循環を考えた商品づくり。実際にコートひとつを見ても、後にアップサイクルがしやすいよう、一般的なパターンよりもかなり少ないパーツで設計している。

サボテンレザーのコート
通常、背面のパーツは左右に分かれているものが多いが、一枚のパーツで設計。「小さめのポーチなら背面の生地から10個はつくれますよ」と村上さん。全体でも大きくは3パーツほどで構成されている

「サボテンレザー自体、最低でも10年は使えるというほどの耐久性をもつ素材なんです。とはいえ、同じ服を10年間着続けるのってなかなか難しいじゃないですか。途中で着なくなって捨てちゃうのはもったいないので、他の形に変えて使っていただく提案をしています。」

素材やデザインだけではなく、ひとつの商品を長く愛用してもらうことを目的にアップサイクルのほか、各地の工房やアトリエと連携した染め直し・お直しも提案している。

シャツ
徳島で藍染めを手がける「WATANABE’S」、京都の染め屋「京都紋付」と連携した染め直し。テンセルとリネンを使ったシャツは、素材特有の風合いを楽しむため、あえて無染色のままにしており、染めた後の変化も楽しんでもらいたいという

素材の検討からその後の循環まで、商品開発はじっくり時間をかけて行うといい、ちょうど取材前日に、4ヶ月間の開発期間を経て、サンプルが届いたという新商品を見せてもらった。

新商品サンプル
現在開発中の、“未完成のまま届けるバッグ”。紐とベルトが別でついており、自由にハトメに通すことで、横や縦、広げてボディバッグのようにしたりと各々が好きなように使える設計。「受け身でものを買うだけじゃなく、自分で創意工夫できるのも、ものと長く付き合う秘訣なのかなと思っています。」と村上さん
新商品スケッチ
バッグの素材は、近年ゴミ問題が深刻化している漁業網を使ったリサイクルナイロン。イタリアの繊維メーカーとプラダが共同開発した素材で、プラダは今、ナイロン製品をこの素材に移行しているのだとか

他にも、サイズ違いのポーチやヘルメットバッグなども開発中。これらの商品はどれも環境や循環を考慮した設計だが、商品をつくる際に何より大事にしているのは、自分たちが好きなものかどうかであるという。

「素材のことや、後に何がつくれるかということはもちろん大事。ただ、それ自体が目的になって、全然可愛くなかったら意味がないと思うんです。サステナブルは、いわばものづくりにおける作法のようなもの。その作法を守りながら、僕らが好きなデザインであることを大事にしています。」

性別を取り除く、新たなファッションの可能性

offsʌɪt studioのもうひとつの特徴は、全ての商品がユニセックスかつフリーサイズであるということ。そこには、社会的に形成されたジェンダーから自由であり、多様性を包み込むようなブランドにしたいというふたりの思いが込められている。実際に洋服から性別やサイズを取り除くことで感じた気づきも多くあったのだとか。

「僕らのスタンスは、基本的に好きなものを好きなように着てください、なんです。やっぱり男女で分かれていたりサイズが細かくあると、例えば僕らが接客をする際も、店に入って来られたお客さんを見た目で判断することになる。女性ものの方がいいかなとか、サイズはこれくらいかなとか、ある種の制約に当てはめてしまう。ユニセックスかつワンサイズとなると、純粋に好きかどうか、お客さん主体で選ぶことができる。それはお客さんにしても接客にしても楽しいことだと考えているんです。」

セクシュアリティーやジェンダー以外にも国籍や宗教、人種などのさまざまなラベルは、各個人の一部であり、人間の本質的な部分は似ているのではないかと考える村上さん。さらに話はこう続く。

「百貨店とかに行くと、フロアで男性と女性が分かれていたりするじゃないですか。でも、どちらにも属さなかったりする人もきっといると思うので、境目をなくすことで、その辺は気にせず楽しんでもらえるのかなと思います。」

近年、ユニセックスのファッションは増えてはきているというものの、どちらかというと、女性が男性ものも着れるというような流れが強く、そこに違和感を感じたというおふたり。服のデザインについても、自身らの感じたことを反映している。

「どちらかがどちらかに合わせるだけがユニセックスなんだろうかと疑問を抱きました。素材や形を組み合わせながら、両方の要素を組み込んだデザインを心がけています。」

サボテンレザーのコート

サボテンレザーのコート

サボテンレザーを使ったコート。シンプルなステンカラーコートをベースに、首のつまりを緩めることで中性的な印象を与えている
パンツ
パンツは、直線的なシルエットでありながら、女性ものに多い光沢感のある生地を使用

サボテン、りんご、マッシュルーム!?進化を遂げるビーガンレザー

商品には、サボテンレザーをはじめ、ユーカリの木が原料のテンセルや、適切な環境で飼育された羊のウールのみを採用したノンミュールジングウールなど、あらゆるサステナブルな素材を使用している。

ブランドの起点となったサボテンレザーは、サボテン自体が乾燥に強く、空気中に含まれる水分や雨水で十分に成長する上、動物性のレザーと違ってCO2の排出量も少ないことから「最も大気汚染から遠い素材」と注目を集めている。お店では、サボテンからつくるレザーというインパクトの強さに驚くお客さんも多いという。

「初めて見た方は驚かれるんですが、サボテンのイメージからは想像できないような柔らかさと手触り、加えて通気性や耐久性など機能的にも優れた素材なんです。サボテンレザーのような植物性のレザーは、バイオレザーとかビーガンレザーといわれ、比較的新しい分野です。最近だと、りんごやマッシュルーム、バナナやぶどうなんかも出てきていますよ。」

サボテンレザー
2007年にメキシコで開発されたサボテンレザー。成熟、乾燥を経たサボテンを粉末化した後、有害物質を含まない薬品で処理され、シートへと成形される

見た目や手触りはもちろん、機能的にも優れたサボテンレザー。素材として高いポテンシャルを持つにも関わらず、まだあまり市場に出回っていない理由について、村上さんはこう話す。

「動物性のレザーと違って裏地の布が必要だったり、端の処理が複雑だったり、めずらしい素材なので加工や縫製をお願いする業者さんを変える可能性があったりと、つくる側にとっての扱いづらさがまだまだあります。一方で、動物性のレザーのような風合いがありながら、合皮のような扱いやすさがある。使う側にとってメリットが大きい素材なので、もっと広まって欲しいと思っています。ヨーロッパでは、すでにファッションに取り入れられたり、最近だとメルセデス・ベンツやBMWの車内のシートにも使われていると聞きました。」

サステナブルを体現する町・京都

オヌルさんは、ドイツのご出身。近年高まる日本のサステナブルに対する意識について、自国との差を感じる部分も多いと話す。

「環境や資源に配慮した社会を目指すという動きは、特に目新しいものではなく、小さい頃からそういった教育を受けてきました。大手のブランドとかは、トレンドとして最近特に熱をあげていますが、ドイツではすでに普段の生活に落とし込まれているような感じです。」

さらに、日本の最近の動きについてはこんな思いも。

「日本ではサステナブルに興味があると言うと、ひとつのカテゴリに属している人みたいに見られるところがある気がします。ちょっと特別視されるというか、意識が高い人のような。ドイツではそういったことが一切なく、例えばファストファッションでも買い物をするけど、食品はオーガニックを選ぶようにしているとか、各々の生活において、取り入れられる範囲で実践しているような感じなんです。」

日本ではまだまだブームとしての側面が強く、目新しさも否めない。ただ、本当の意味でサステナブルな社会を考えていくには、生活に根付かなければ意味がないと村上さんは話す。

「すべてをサステナブルなもので生活しようと思うと、仮にできたとしても、多分めっちゃしんどいと思います(笑)。お金もめっちゃかかる。別に特別頑張ってやるものでもないと思うので、大事なのはトレンドで終わらせず、どこまで生活に浸透できるか。無理なく、できる範囲で楽しみながらやったらいいんじゃないかと思っています。」

さらに、おふたりが活動する京都について、サステナブルな視点で見た時に思うことを聞いてみた。

「京都ってなんか町全体がサステナブルな気がするんです。僕らもサステナビリティについて話す時、環境や文化、コミュニティなど、いろんなものが複合的に絡まっていてすごく難しく感じるんですけど、そもそもサステナブルって持続可能なって言うじゃないですか。その点、京都は何百年と続くお店がたくさんあって、コミュニティも残っていて、自然も多くて。うまく説明できないんですけど、町全体でサステナブルを体現しているんじゃないかと感じます。もちろんそれを意識していないと思うんですけど。東京よりせかせかしていないし、すでに生活の中に落とし込まれている気がしています。」

鴨川
鴨川をはじめ自然と密接でありながら、自転車で移動がしやすいコンパクトシティ京都

サステナブルが土壌に根付く町・京都で、今後おふたりはどのような活動を続けていくのだろうか。

「町の集会所みたいな場所でありたいですね。ショップはもちろん、最近は奥のスペースを使って、アーティストの方の展示をしたり、イベントなどもやっているので、ふらっと立ち寄ってもらえるような場所になれたらいいなと。」

店内
古い町家を改装した店内では、これまでイラストレーターや写真家の展示を開催した

「お店として商品数を増やすことはもちろん、商品のカテゴリも広げたいと思っています。僕の実家が金属加工所で、ものすごい量の金属廃材が出るんです。それを使って今、お香立てを試作していて。そういったファッション以外の分野も広げていけたらと思っています。あと、ふたりの個人的な願望としてはいつかドイツにもお店を出したい。向こうのカルチャーもミックスしたりして、さらに面白いものをつくっていけたらと思っています。」

日本におけるサステナブルの意味を問い直し、多様な視点でものの循環を試みる offsʌɪt studio。あらゆる境界線を取り除いたふたりの活動に、これからのものづくりのヒントがあるにちがいない。

 

企画編集:光川貴浩、河井冬穂、早志祐美(合同会社バンクトゥ)
写真提供(敬称略):offsʌɪt studio