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店頭に立つ真野さん

日本酒×発酵を探究する「発酵室よはく」店主いわく、左京区は発酵スポットが目白押しらしい

嶋田翔伍
編集者

噂の広まり

独り言

この記事の内容

・日本酒×発酵のお店「発酵室よはく」に行ってみた

・店主の真野さんが、会社を辞めて発酵の沼にハマるまで

・京都の生活に根付く「よはく」づくり

・真野さんが案内する、おいしい「発酵」スポット

 ■ 酒席 水琴窟(しゅせき すいきんくつ/烏丸御池)

 ■ 酒とつまみ 蓮(さけとつまみ れん/出町柳)

 ■ 星の球(ほしのたま/元田中)

 ■ La guingette (ラ・ガンゲット/出町柳)

 ■ すみれや(すみれや/元田中)

日本酒×発酵のお店「発酵室よはく」に行ってみた

京都市は左京区、日本酒と発酵をかけ合わせた食を提案する発酵室よはくというお店がある。発酵室よはくを運営するのは、料理家の真野遥さん。1年前、東京から京都へ居を移し、同店の営業を開始した。京都という土地に惹かれ日本酒×発酵のお店を始めたという真野さんに、その楽しみと京都で出合った素敵なお店を紹介してもらうことにした。

店頭に立つ真野さん
発酵室よはくでは真野さんが選び抜いた日本酒を購入できる

発酵室 よはく

営業時間:11:00〜19:00
定休日:日曜日、月曜日※不定休あり

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店主の真野さんが、会社を辞めて発酵の沼にハマるまで

2010年代にブームに火がついた塩こうじに、日本酒。コロナ禍を経て、発酵の持つ免疫アップの力が注目を浴び、腸活の流行にも後押しを受けてじわじわ発酵への注目が集まっていく過程に並走するかのように発酵食と向き合い、まさに“発酵”するようにふつふつと研究に取り組んできたのが真野さんだ。

もともと、食とは無関係の会社ではたらいていた真野さん。就職氷河期でなんとかたどり着いた企業にどうもしっくりこない毎日のなか、自炊は数少ない楽しみのひとつだった。一年半、勤めたものの、食の道に進みたいという思いが大きくなり退社。ビジネスシーンにおけるレシピの開発や演出を手がける「フードコーディネーター」を目指して通う学校で、ある日、同期が持参した「豊盃(ほうはい)」という日本酒の味に衝撃を受けたのが、真野さんが日本酒、そして発酵に興味をひかれたきっかけだったという。

「酒蔵を訪ねては、お話を聞かせていただきました。米と水と麹、たったそれだけのシンプルな材料が、かける時間や分量、製法によって、多様な味に変化するのがおもしろくて。見えない微生物たちのはたらきが、魔法のように感じられました」

蔵元見学に足を運び、過去の文献を読み漁る日々。東京農業大学に研究生として通い、醸造学を学びながら、『みその教科書』の著者である料理研究家の岩木みさきさんに師事してアシスタントを務めた。学びを深めるなかで「コーディネーターとして企業向けにスタイリングを行うのではなく、より生活に近いところで『発酵』を突きつめてみたい」と考えるように。

書籍『手軽においしく 発酵食のレシピ』と『いつものお酒を100倍おいしくする 最強おつまみ事典』
真野さんの出版しているレシピ本

当時、友人主催の日本酒会で料理を振る舞っていたのが好評を博し、料理教室を開くまでになっていた真野さん。2018年、新宿御苑の料理家に向けたシェアオフィスを拠点として立ち上げたのが、「発酵室よはく」の前身となる日本酒と発酵料理の教室だった。

「日本酒と発酵料理、みんなそれぞれの魅力には気づいていたけれど、ふたつをかけ合わせたかたちというのは当時、珍しかったと思います」

日本酒で乾杯する参加者
料理教室の様子

「豚しゃぶヤムウンセン」と「5人娘 むすひ」のペアリング。クセもの同士が合わさってクセが消える、不思議なペアリング

「菜の花とささみと伊予柑の塩麹からし和え」と「不老泉 無濾過生原酒 備前雄町」のペアリング。不老泉の強い旨味やコクが軽やかに味わえる

もともと京都が好きだったことから、新宿と京都の二拠点生活をはじめた真野さんは、2023年6月、京都市左京区で「発酵室よはく」をオープン。本格的に京都拠点の暮らしをはじめてから、もうすぐ10ヶ月になる。

「京都は生産と消費の両方が充実していて、双方が近い距離にあるのが魅力だと思います。お漬物やお隣の滋賀県の鮒寿司など、発酵文化も豊富ですよね。刺激的なレシピを追い求めるのではなく、季節の移ろいにあわせた食のあり方を考えるようになってから、そのほうが自分も楽になれると気がつきました」

田植えをする真野さん
久多に住む友人の田んぼの田植えの手伝い

京都の生活に根付く「よはく」づくり

「発酵室よはく」の店頭には真野さんがセレクトした日本酒や発酵食品が並ぶ。角打ち形式で日本酒とアテを楽しむこともできるほか、月によっては、味噌やキムチなど季節の発酵食品をつくる「仕込み会」も開催。料理教室の頃のノウハウがつまった仕込みのレシピを学べるとともに、ランチも楽しめる。

よはくでの日本酒の販売風景
手書きの名札と一言メッセージ。好みの一本を見つけたい

味噌仕込み会、キムチ仕込み会の様子

あえて気軽な「角打ちもできる酒屋」にして、料理屋や居酒屋という形態にしなかったのには理由がある。真野さんが見つめるのは、あくまでも訪れる人の「生活」だ。

「自分のつくった料理を食べてほしいという気持ちはあまり無いんです。私がしたいのは、家での暮らし、食卓が少しでも豊かになるためのお手伝い。暮らしに寄り添うことを考えて、仕込む発酵調味料の数も、あえて数種類に絞り込んでいます。食卓のレパートリーを増やすというより、季節に身をゆだねた自然な食の楽しみ方を提案したいと思っています」

瓶詰めの調味料
自家製の発酵調味料。玉ねぎ、にんにく、トマトなど、真野さんがたどり着いたおすすめのもの

真野さんが案内する、おいしい「発酵」スポット

「よはく」の店名は、発酵を通じて暮らしに余白を醸すことを意図して名付けられた。思いがけず訪れた観光の地・京都で、みなさんの生活に発酵の魔法がかかるかもしれない。最後に、「発酵室よはく」でも料理を仕入れているという、京都の「発酵」スポットを紹介していただいた。

日本酒「宝船浪の音」
筆者も店頭でおすすめの一本を購入。お酒と料理の好みを伝えて紹介してもらえるのはありがたい

■酒席 水琴窟(しゅせき すいきんくつ/烏丸御池)

知る人ぞ知る左京区は元田中の名店中華料理屋・上海バンド。惜しむ声も多い中閉店し、店主が次に始めたお店が酒席 水琴窟。郷土食を中心とし、発酵料理と日本酒も味わえる。真野さんいわく「料理は美味しいし、お客さんも面白い。丁寧な仕事とセンスのよい食べ合わせは、研究熱心な店主さんのなせる業です」とのこと。

酒席 水琴窟

営業時間:18:00〜24:00頃
定休日:日曜

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「酒席 水琴窟」の店内。カウンターに日本酒が並んでいる

■酒とつまみ 蓮(さけとつまみ れん/出町柳)

熱燗の名店。「つけ方が優しい」とは真野さんの言。一人でもふらっと入店することができ、アテも旨い上にリーズナブル。中国式の発酵料理・酸豆角(スァンドウジャオ)が絶品だったという。発酵室よはくの人気メニュー「鹿納豆味噌」は、蓮とのコラボメニュー。

酒とつまみ 蓮

営業時間:17:00〜24:00
定休日:不定休

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■星の球(ほしのたま/元田中)

羊を愛する店主によるダイニングバー。羊料理とお酒が楽しめる。羊乳チーズを使ったパスタや、羊の肉味噌料理、マトンのそぼろなど、羊ずくし。知らなかった羊ワールドに出会えるだろう。発酵室よはくからもほど近く、羊のパテは発酵室よはくの角打ちで楽しめることも。14時開店と早く、昼飲みにもよい。

星の球

営業時間:14:00〜22:00
定休日:不定休

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「星の球」店内。陽が差し込む窓辺に置かれたテーブル。天井にはドライフラワー

■La guingette (ラ・ガンゲット/出町柳)

こちらは肉の加工品のお店。スモークハムやパテが真野さんのオススメの一つ。食品加工品全般を指す「シャルキュトリー」を追求する店主が営む。独自の配合と火入れで仕上げたシャルキュトリーは盛り合わせも楽しめる。日本酒に親しむ真野さんの目線で紹介してくれたナチュラルワインも興味深い。

La guingette

営業時間:18:00〜24:00
定休日:不定休

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「La guingette」店内。落ち着いた照明で、カウンター席と小さなテーブル席がひとつある

■すみれや(すみれや/元田中)

最後に紹介するすみれやは、乾物と生活雑貨のお店。京都近郊の農家さんや作家さんなどが

作った丁寧なものを販売する。塩、醤油、ハチミツ、オリーブオイル、豆類に、ドライフルーツなどの食にかかわるもの。手ぬぐい、曲げわっぱ、靴下など挙げだすときりがない。衣食住にかかわる生活を豊かにするものを手に入れられるお店。マーケットやお稽古、ヨガなどイベントも積極的に行われている。

すみれや

営業時間:10:30〜18:00
定休日:月・火

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「すみれや」店内。乾物や生活雑貨が並んでいる
お店のロゴマークが入った「発酵室よはく」の暖簾
木の年輪のようにもレコードのようにも見えるお店のロゴマーク。真野さんは音楽好きらしい

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企画編集(順不同、敬称略):光川貴浩、河井冬穂、早志祐美(合同会社バンクトゥ)
撮影(順不同、敬称略):嶋田翔伍