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噂な旅通信

友達の下宿を思い出す?何屋なのかわからない“ナゾの店”が梅湯グループの銭湯「源湯」2階にあるらしい

「ポmagazine」編集部
「ポmagazine」編集部

噂の広まり

独り言

京都のプロや旅のプロに、京都にまつわる噂や、好奇心をくすぐる旅の話を聞く連載「あの人からの噂通信」。

今回は北野白梅町近くの銭湯「源湯」からお届けします。というのも、ここ源湯の2階に「謎の店」があるらしい、という噂を立て続けに聞いたため。「だいぶ怪しい空間」「はまる人はドはまりする」、さらには「自分で行くのはちょっとあれだから、代わりに行ってみて」という声も。

源湯
北野白梅町から歩いて10分ほどの路地にある源湯。湊三次郎さんが率いる「ゆとなみ社」が、2019年7月にサウナの梅湯の4号店として継業した銭湯

ちょっと調べてみると、源湯を経営する「ゆとなみ社」代表・湊三次郎さんのこんなつぶやきが。

お店の名前は「あきよし堂 Fook Up(以下、あきよし堂)」というらしい。実態を知りたい、ということで、源湯の店長・鈴木伸左衛門さんと、あきよし堂の店主・中村あきよしさんを訪問してみることに。

源湯 くつろぎスペース
こちらは源湯1階のくつろぎスペース。畳敷きで田舎のおばあちゃんの家にきたみたいな感覚。ボードゲームやマンガも常備されている

源湯さんに到着し、早速、伸左衛門さんに「そもそもあきよし堂ってなんのお店なんですか?」と聞くと「変な店です」との答えが。

「いや、褒め言葉ですよ。店主の中村A(あきよし堂の店主は、梅湯界隈ではこう呼ばれているらしい。元々ツイッターのアカウント名として使っていたお名前だとか)は、話の引き出しも多いですし、文化系の人は刺さるんじゃないですかね。あきよし堂が入ってから約1年半で、お風呂に入らず『あきよし堂を見にきました』と言って来店した人が5人ぐらいいます」

「たまにサボる時もあるんですけど、今日は来てるかな?」と話す鈴木さんについて2階に上がると、そこには、古着や本、CDなどの商品が雑多に並ぶ空間が。友達の下宿に遊びに行った時の感覚を思い出しました。学生時代、「アイツはセンスがいい」と言われている友達が仲間内にひとりはいたはず。彼の部屋を密かに心躍らせながら見回していた時の気分が甦る、そんな空間です。なぜこんな店が銭湯の2階に?……前置きが長くなりましたが、いよいよふたりに話を聞いていこうと思います。

あきよし堂
昭和のアイドルのポスターやジャンルごちゃ混ぜの店内。何に使うんだ?という雑貨があったかと思えば、手に入りづらい名盤レコードがさりげなく売られていたり、1500円均一コーナーにマーガレットハウエルのシャツが置かれていたりと、掘り出し物を見つけたくてソワソワしてしまう

Q1 まさに「趣味の品」というべき物が詰め込まれている印象です。これらはどこかから仕入れているのでしょうか?

あきよし:売っているものは基本的に僕の私物です。古着は人にもらうことも多いですね。なので仕入れは特にしていません。たまたま買い物に行った先で良いものがあれば買って並べることもありますが、しっかりと仕入れをするお金もないですからね(笑)。先日は岡山の実家から200点ほど売れそうなものを発掘して持ってきました。

あきよし堂
このごちゃっと感がたまらない。店を覗いて、あきよしさんの人柄やセンスにハマる人がジワジワと増加中
あきよし堂
世代もさまざまに並ぶ書籍やCD
あきよし堂
「金」に関係する物だけを集めた「拝金コーナー」なるものが出現したことも

あきよし:ちゃんと仕入れをして本格的にお店として成り立たせようと思ったら、本当に推したいものだけ売ってればいいという訳にはいきませんし。店の方向性は模索していますが、今のところは自分の好きな物だけを並べている状態です。

Q2 どのような経緯で、あきよしさんがここに出店することになったんでしょう?

伸左衛門:僕が継いだ時、源湯は経営難だったんです。そうでなくても人気の銭湯に囲まれている立地にあるので、なにか本業以外でも安定的な収益を上げる方法はないかと。そこで湊くん(湊三次郎さん)が銭湯の上の階にテナントを入れることを提案してくれて。中2階と2階の合計5部屋、今はすべて埋まっています。中2階は、ギャラリー「氵(さんずい)」さんと、刺繍作家の橘美彩さん。2階には、デザイン事務所「Holiday and Work」さんと、アロマとお茶の「Scent-mushi」さん、そしてこの「あきよし堂」ですね。

あきよし:湊さんに「源湯の2階にテナント入れるから、出店しろよ」って言われたんです。湊さんは、僕が一時期古本屋でアルバイトしていたことや、本好きなのを知っていて、「なにか店やれば」とはずっと言われていました。湊さんの中では「僕に店をさせたい欲」がずっとあったみたいです。

梅湯
銭湯好きならその名を知らぬ人はいない?ゆとなみ社の湊三次郎さんは、写真の「サウナの梅湯」を24歳で引き継いで今年で6年。現在は「ゆとなみ社」として梅湯を含む6軒の銭湯を経営。銭湯コンサルティングなども行なっている

あきよし:余談ですが、湊さんと知り合う前から、一方的に湊さんのことは知っていました。雑誌『POPEYE』(マガジンハウス)に掲載されているのを見て、「同学年でこんな人がいるのか」と。湊さんが継いですぐの梅湯に行ったのをきっかけにボランティアで掃除の手伝いをすることになり、そこからずっと付き合いが続いています。

Q3 物に囲まれて、なんだかとても落ち着きます。このなかで特におすすめしたい商品があれば教えてください。

あきよし:本については「布教ライン」といって自分が読んで特に響いたものを置くコーナーがあって、イチオシはそこに。ジャンルは特に偏らず、幅広い人に深く刺さるものを選んでいるつもりです。

あきよし堂

なかでもサブカルチャーにも造詣の深い精神科医である斎藤環さんの『若者のすべて―ひきこもり系VSじぶん探し系』(PHPエディターズグループ)は、ずっと切らさないように置いていて。今までで40冊以上出たと思います。内容の雑多さもいいですし、読んでみると自分の中でそれまで腑に落ちなかったことが、すっと腑に落ちるんですよね。

Q4 僕は銭湯が好きなのですが、なにか一冊、オススメの本を教えていただけますか?

あきよし:銭湯に興味はお持ちでしたら、これなんかどうでしょう?『苦の世界』(岩波文庫)という小説です。戦前から戦後にかけて活躍した宇野浩二っていう小説家の代表作ですね。この小説では、家庭が苦痛で仕方ない男が、毎日家に帰りたくないから銭湯に入り浸っているんです。そのシーンは結構長く書かれていて、描写から哀しみや可笑しみが伝わってきておもしろいですよ。

苦の世界

—こんなプレゼンを聞いては、買わずにはいられないですよね。値段はたしか200円でした。

以前、湊さんに「この街のどこに京都らしさを感じますか」という質問をしたことがあります。今回の取材後に思い出されたのが、その問いに対する湊さんの答えでした。

「個人のお店で、『どうやって食べていってるんだろう』と思うようなお店が京都にはけっこうあるんですよね。そういうところにグッとくる『京都らしさ』を感じます」

あきよし堂は、まさにそんなお店です。たまに店主遅刻により電気が点いていない時がありますが、そんな時は湯船でゆっくり過ごして開店を待つのもいいかもしれません。

【あきよし堂 Fook Up】
営業時間:19時~25時(遅れること多め、詳細はTwitterで)
定休日:月・火曜日

<プロフィール>

鈴木伸左衛門(すずき・しんざえもん)
源湯店長。奈良県出身。1990年生まれ。さまざまなアルバイトを経験するうちに風呂屋の経営に興味を持ち、大阪の銭湯の門をいくつも叩くが惨敗。梅湯の湊さんがその存在を知り、ゆとなみ社へスカウト。風呂屋に対する本気度から源湯の継業時に店長に就任。

「源湯」Twitter:@minamotoyu_kt
「伸左衛門(しんざえもん)♨︎源湯」Twitter:@shinzaemon_268

中村あきよし
「あきよし堂 Fook Up」店主。岡山県出身。1991年生まれ。大学6回生のころ、オープン直後のサウナの梅湯で湊さんと知り合いになり、梅湯の掃除をボランティアで手伝うようになる。2019年源湯2階に「あきよし堂 Fook Up」オープン。

「あきよし堂 Fook Up」Twitter:@AkiyoshidoFu

 

企画編集:光川貴浩、河井冬穂(合同会社バンクトゥ)
取材・写真協力:林宏樹