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保存食labとマガザンキョウトが、地域の特産品を「勝手に」つくっているらしい

「ポmagazine」編集部
「ポmagazine」編集部

噂の広まり

独り言

京都で日々、噂になる人たちは、今何を見て、何を考えているのだろう?

瓶詰めの保存食を製造・直売する「保存食lab」と、町家の宿を雑誌に見立て京都のローカルカルチャーを体験できる「マガザンキョウト」。2010年代の京都カルチャーを語る上では欠かせない名プレイヤーとして活躍する2組が、このたびタッグを組み、何やら企てている、という噂を耳にした。

その名も、「勝手に特産品プロジェクト」なのだそう。
しかも、特産品の舞台は、京都でもないらしい。京都で噂になる人たちの、活動の最先端をのぞいてみた。

#00 「勝手に特産品」プロジェクトとは

ー 勝手に特産品プロジェクトって、どんなプロジェクトなんでしょうか?

岩崎さん:保存食labのおふたりと旅に出かけたのがはじまりなんです。各地への旅を通してリサーチを行い、その地域が気づいていない魅力を外からの視点で掘り起こそうと。そんな旅のなかで、その地の食材を使って“勝手に特産品をつくろう”としています。

まずはマガザンキョウトの店舗やオンラインショップでの販売に向け、リサーチや商品開発など、まさに準備の真っ只中であるという。

ー どんな地域を旅しているんですか?

泰斗さん:これまでに行ったのは、兵庫県三木市、滋賀県比良山地、大阪府能勢町。あんまり目的地にならないような、盲点となっているような場所です。

京都のローカルカルチャーをつぶさに見続け、「特集」の展示やショップに落とし込むマガザンキョウトの代表・岩崎達也さん

ー いわゆる観光地ではない、ですね。イメージが浮かばない地域もあります。

奈穂さん:今回の「勝手に特産品」って、頼まれてもいないのにその土地の特産品をつくることがテーマなんですけど、逆に資源とか魅力があり過ぎても面白くないんですよ。そういう地にはそもそも特産品とされているものがあるし、イメージ的にまだ少しぼんやりした地域の方が、生み出すものが面白いんじゃないかっていうのはありました。

岩崎さん:おふたりとも話していたんですけど、「地域の捉え直し」っていうのもひとつのキーワードで、たとえば三木市も三木市で捉えず、姫路市とか加西市、たつの市とかの近隣都市を入れた播州文化圏(明治以前の播磨国、現在の兵庫県南部)というエリアで捉え直したら見方も変わってくるよねと。

ー 現在の行政区域では捉えられない特産品や、地域の個性が浮かび上がりそうです。

瓶詰めの保存食が人気を博す、保存食labの主宰・増本奈穂さんと、ディレクションを手がけるアーティストでありパートナーの泰斗さん。おふたりの活動を取り上げた過去の記事はこちら

#01 山田錦の酒粕でつくる“あえて2番”の代替品

ー 最初の旅は、兵庫県三木市を訪れたとか。

岩崎さん:僕の出身が三木市なんです。おふたりと行ったら何か新しい発見があるかもという期待というか、丸投げです(笑)。場所選びにもいわば「勝手に」なんですよね。ほかの2箇所も含め、我々が行ってみたいとか馴染みがあるとか、そういったパーソナルな文脈が起点となっている部分が大きいです。

ー 三木でのリサーチはいかがでしたか。

岩崎さん:実家が日本酒醸造に使う酒米「山田錦」の農家で、地域の名産であることもわかっていたんですが、ほかに何かないかなと。ただ、いざリサーチしてみると、それ以外の農産物があまりなくて……。やっぱり、農地のほとんどが田んぼなんですよね。

旅を通して各地のリサーチが行われた。最初に訪れた三木は、稲を育てるためのため池も多くつくられ、マップで見るとまだら模様に見えるほどだとか

ー 三木の人にとって、山田錦ってどういう存在なんでしょうか。

岩崎さん:もう風景であり、日常ですよね。子どもの頃に親から頼まれる仕事で、田んぼの水当番があったり。サボると下の田んぼに水が流れないのでめっちゃ怒られる。死活問題だからでしょうけど、それを子どもに任せるなよとも(笑)。

泰斗さん:田んぼが共同体の要ですもんね。

ー 米一択のなか、最初のリサーチではどのような商品の可能性を模索したのでしょうか。

泰斗さん:正直、食材があまりなく、帰りの車の中でどうしようとも一瞬思ったんですよ。でも、何も無いと思い込んでる自分が悪いんじゃないかと。それに、そもそも何かを見つけ出さなくちゃいけないという強迫観念をもってること自体が間違ってるんじゃないか、みたいな葛藤がありました。

岩崎さん:なるほど(笑)。保存食labのソウルは、まさにそういうところにあるような気がします。

奈穂さん:結局、三木では地域で当たり前になっているものの見方を変えるという意味でも、あえて山田錦にフォーカスしてみようと。その時、ちょうどしぼりたての酒粕があって、これを使おうということになりました。そこからできたプロトタイプがこちらです。

山田錦の酒粕でできた「カレー酒粕」

奈穂さん:カレー酒粕っていうペーストなんですけど。

岩崎さん:めちゃくちゃ、いい香り。

奈穂さん:山田錦の酒粕と、同じく山田錦の米麹を使った味噌をベースに、誰でも再現しやすいよう、あえてS&Bのカレー粉で味付けしています。調味料のようなペーストなので、いろんな料理に加えられますよ。

岩崎さん:これの粕汁とか飲んでみたいですね。三木で少年野球にいたんですけど、炊き出しが絶対粕汁で。当時はめっちゃ嫌いだったんですよ(笑)。これなら子どもでもいけそうです。

奈穂さん:いろんな使い方ができますよね。ペーストとして製品にしたいですが、たとえば、鰆を漬けて西京焼き風にしたり、鶏肉を漬け込んでタンドリーチキン風にしたり。生地に練り込んだクッキーもつくってみました。

カレー酒粕で漬け焼きにした鰆とチキン。酒粕の力で身がより柔らかく、ジューシーな仕上がりに
カレー酒粕を練り込んだスパイスクッキー。酒粕を焼き込むことでチーズのような風味が広がる

岩崎さん:カレーがスパイスというより、味を整える側にいますよね。

奈穂さん:そうなんです。酒粕ってさっきの粕汁の話じゃないですけど、意外と敬遠されてる方も多くて。カレーを加えることでより使いやすく、現代の生活に落とし込みたいなと思いました。

泰斗さん:僕が思ったのは、西京焼きって白味噌で漬け込むのが一般的じゃないですか。それには勝てないけど、あえて「代替品でもいいよ」くらいの成立のさせ方もあるんじゃないかと。

岩崎さん:最初から2番みたいな。

泰斗さん:そうそう。あとこの前、“らっきょうが真ん中”みたいな話があったんです。

岩崎さん:らっきょうが、真ん中ですか?

奈穂さん:薬味の中で、ニンニクとかニラは主張が強すぎるから決まった方向にしか使えないけど、らっきょうは主張が少ない分、その真ん中で、和でも洋でもどんな方向にも使えるみたいな話です。

泰斗さん:そういう意味で、白味噌はある程度決まった方向にしか使えないけど、酒粕だったら主張が少ない分、意外といろんなものに寄り沿ってくれる。トガれないけど、その分いろんなものの代替品として使えるのかなと。

岩崎さん:そう考えると酒粕って不思議な食材ですよね。汎用性はあるけど、主張もそんなにせず、パーソナリティもあるみたいな。

泰斗さん:能力値みたいなので描くとしたら、全方向的に小さくバランスがいいのかも。

外から来た人と地元の人が共有できる場として再解釈したいと目をつけた「道の駅」

#02 干すことで旨くなる。比良の山菜で乾物ワークショップ

ー 次が、滋賀県の比良山地でしたね。

泰斗さん:海や山で食材を採るみたいなことをうちでもよくやるので、それができないかなと。僕自身、山登りや沢登りが好きで、ここなら何かあるんじゃないかと思い、行ってみました。

ー ここでは山菜採りをされたとか。

岩崎さん:本で調べながら山菜を採りました。わりとガチの山登り(笑)。山菜ってどこの地域でも採れますし、道の駅とかにもよくあるんですけど、そこをあえて特産化できないかと。

比良山地は滋賀県大津市、琵琶湖の西岸に連なる山地

泰斗さん:山菜って不思議なもので、採りに行く体験があってこそ価値を持つ食材、みたいなところがありますよね。

岩崎さん:身体的な出来事と、口に入るまでがつながっている感じですよね。そのストーリーはたしかに美味しい。

つくし、山椒、イワタバコ、ヤマソテツ、タラノメなど収穫した山菜は乾物に

奈穂さん:採れた山菜は、1日ほど干して乾物にしました。

ー 山菜を乾物にするイメージって意外となかったかもです。

奈穂さん:山菜ってやっぱりその苦味とか、色の美しさが魅力のひとつじゃないですか。瞬発的に春を感じられるというか。あんなに美しい緑とか紫のグラデーションみたいなのが、乾物にすると全く生かされなくなる(笑)。でも、乾物の良さは、なんといっても旨味の凝縮。あえて時間が経ってから食べる美味しさもあるんです。

岩崎さん:干すことで香りも出ますね。これぞ発酵。

山菜、椎茸などの乾物と牛すじを煮込んだ煮物。この茶色感が食欲をそそり、想像通りご飯が進む!

奈穂さん:それにたとえば、椎茸とかポルチーニとか乾物の方が美味しい食材もありますよね。今日は煮物にしましたが、料理のバリエーションも豊富だと思います。最終的なアウトプットとしては、商品ではなく、乾物ワークショップみたいなのも面白いかなと思っています。

岩崎さん:商品に縛られず、あえてワークショップにしてしまう発想はありだなと思います。普段、クライアントワークに慣れてると、そういった判断ができなかったりしますから(笑)。

#03 能勢の里山から生まれるイタリアンティスト

ー最後は、大阪府能勢町ですね。

泰斗さん:もともと僕が亀岡経由で能勢にクライミングに行っていたんです。景色がきれいで、まだ手つかずの田舎が残っているような感じが良いなと思って選びました。

里山が広がるのどかな能勢の風景
時期は異なるが、栗も名産のひとつ。道の駅には大きな栗の置き物が

奈穂さん:能勢は道の駅と直売所で仕入れたトマトを使いました。

ー トマトも一般的な食材ですが、保存食lab流の「捉え直し」がおこなわれたわけですね。

田園風景にぽつりと現れた小さな直売所

奈穂さん:まずは素材そのものの旨味を味わいたく、3日くらい干してドライにしてみました。

旨味が凝縮した能勢のドライトマト

岩崎さん:罪悪感のないドライフルーツのような甘みですね。

泰斗さん:そのままでも十分、日本酒とかワインのおつまみになりそう。

奈穂さん:このドライトマトを、ケイパーとオリーブオイル、アーモンドを入れて、イタリアンっぽく落とし込んでみました。パンとかクラッカーにつけると美味しいと思います。

写真左が、能勢のトマトでつくったイタリアンペースト。写真右は、うどんに合う調味料として以前つくったという、ドライトマトを、梅干し、白ネギと合わせた調味料「おうどんのしらべ」

岩崎さん:旨味がすごいですね、ご飯ともいけるレベル。最後にトマトの甘みが残ります。

奈穂さん:お肉につけたり、薬味にもなります。以前つくった「おうどんのしらべ」は、同じくドライトマトがベースなので、能勢のトマトでも展開できそうだなと。

泰斗さん:能勢のリサーチ全体でいうと、僕はやっぱり風景の記憶がすごく強かったですね。

岩崎さん:大阪とは思えない景観のクオリティ。京都からも意外とすぐなので、まだまだ穴場な気がしています。

泰斗さん:気づいたことが、ある種の合理性とか効率性によって省かれてきた食材や料理とかってあっただろうなと。今はほとんど見ないけど、地域のおばあちゃんに聞いたら出てくるとか。そういう新自由主義的ではないところに、もしかしたら何か面白いものが隠れているのかなと思ったりします。

奈穂さん:手間がかかる野菜とかね。そのわりに収穫量が悪いと排除されたりってあるんだろうな。

泰斗さん:酒粕も実は全然違う使い方をしていたけど、手間がかかるからやらなくなったとかもありそうですよね。

リサーチ結果は“食べ物”で

岩崎さん:というのが、これまでのリサーチの様子です。商品に関しては、大量生産ができるわけではないので、まずはこういう活動を少しでも知っていただけたらなと。

ー 3地3様のプロトタイプ、今後の展開が楽しみです。

岩崎さん:リサーチって、普通レポートにしてまとめると思うんですけど、今日食べたプロトタイプがまさにレポートですよね。成果を文字や写真ではなく、食べ物で披露するっていう。

ー たしかにプロトタイプから各地の様子や魅力が伝わってきました。

奈穂さん:外から来たからこそ気づくことも多分あって。中にいるとすでに当たり前になっているから、なかなか魅力とかも分からないじゃないですか。それを外から来た者の視点で解釈して、提案できたらと思っています。商品もいきなり100ロットつくるとかは難しいので、たとえばレシピを共有して、地域のおばちゃんグループにつくっていただいたものを道の駅に並べてもらうとか、そんな展開もいいかな、なんて。

岩崎さん:それいいですね。ステップ2って感じ。

泰斗さん:そう思うと、この「勝手に特産品」プロジェクトは、誰かのためのプロトタイピングなんじゃないかっていう感じもしてきました。

岩崎さん:その地域にレシピとして返していくのは大きな意味になりそうです。道の駅に置かれるっていうのをひとつの目標に続けていけたらいいですね。

 

「保存食lab」HP:http://hozonshokulab.xyz/
「マガザンキョウト」HP:https://magasinn.xyz/

 

企画編集:光川貴浩、河井冬穂、早志祐美(合同会社バンクトゥ)
撮影(敬称略):井上みなみ(株式会社マガザン)