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ムスリム観光客にとって食の砂漠?だった京都に、日本唯一の「ハラルビル」があるらしい

沢田眉香子
編集・著述業

噂の広まり

独り言

ムスリム観光客は京都を満喫していなかった? 彼らの知られざる悩みとは?

京都の大路小路を埋め尽くすインバウンド観光客。その中に、スカーフ姿でそれとわかるムスリム女性(イスラム教徒)もよく見かける。

世界のムスリム人口は4人に一人といわれ16億人強。中東よりもアジアに多い。訪日観光客数のうちのムスリムの割合は、インドネシア人51万人の8割強、マレーシア人50万人の6割と想定される(※)。ムスリム女性がスカーフ着用のままレンタル着物を着て歩くという、世界中でここでしかみられない光景が繰り広げられる京都だが、笑顔で観光中の彼らに、悩みがあったことをご存知だろうか。それは食事。食のおもてなしで世界随一を誇る京都で、なんと「安心して食べられる料理店がほとんどない」のだった。

和食が、ムスリムにとって「安心できない料理」である理由

「ハラル」とは、イスラーム法で禁じられているもの、食品で言うと豚肉、豚肉由来製品、アルコール、体に毒であるものなどを含まないことを言う。さらに、ハラルであるためには製造過程で禁止物が混入しないよう管理されていることが条件となる。実は、和食の調味料である酒、みりん、味噌、酢の多くには禁止物であるアルコールが添加されていることが多い。豚肉を避けても、揚げ物にラードが使われていたり、ベーキングパウダー、ショートニング、ゼラチンにも豚肉由来のものが含まれていることがある。禁止食品の使用や混入の不安がないことを証明した「ハラルレストラン」は、こうした不安なくムスリムが食事できる場所なのだが、その認証を受けた飲食店は、京都では、わずかしかない。

木屋町の東の小道が、ハラルストリートになっていた

年間数十万人のムスリム観光客が日本の食を安心して楽しめない状況があったとは。そんな状況のなか、砂漠のオアシスのように、ハラルレストランが3軒、阪急電鉄・京都河原町駅から徒歩3分、四条木屋町を一本東に入った小さな通りに登場していた。「帆のるの和牛うどん」、「帆のるぷれみあ京都」、そしてビル1棟まるごとハラルレストランの「帆のるグランデ」だ。

これが日本初のハラルビル!「帆のるグランデ」
同じ通りにある「帆のる和牛うどん」。おにぎりのテイクアウトもOK
木屋町側に入り口のある「帆のるぷれみあ」は落ち着いた雰囲気

日本初のハラルビルには、礼拝室も完備

ビルの入り口には、ゴージャスな和牛ステーキと和牛ラーメンのメニュー写真や、チラシが貼ってある。一見、よくある観光客向けの店に見える。実際、「帆のる」は、ムスリムオンリーな店ではなく、実際、非ムスリムの旅行者も日本人も多数来店しているそうで、メニューにビールがないことで、初めてハラルだと気づく人も(気づかない人も)いる。

ハラール認証。イスラム教の国では、政府や公的な機関がハラール規格を定めるが、日本では複数のムスリム団体が認証をおこなっている。「帆のる」ではマレーシアの認証を得ている
京都の観光写真をあしらった店内

ハラルと知らずに入店して、ちょっと驚くことがあるとしたら、1階に礼拝室があることだろう。イスラム教徒の多い国ではデパートや公共施設に必ずある設備だが、京都では、ここは数カ所しかない貴重な礼拝室だそう。「食事はしないけれど、礼拝室だけ使わせてほしい」と来店するムスリム旅行者もいる。

こちら礼拝室。年間数十万人のムスリム観光客の1日5回のお祈りを受け入れる場所が京都にほとんどないとは残念
手足と口を清め、メッカの方向に向いて礼拝する。イスラム教徒にとって、大切な神様との対話の時間だ
こちらがメニュー。日本が誇る和牛を、ムスリム観光客の方々に安心して食べていただけるのは何より。唐揚げや鶏白湯スープのチキンも、ハラルと畜された肉を使用している
ハラルだけでなく、ベジタリアンラーメンもメニューに

ハラルといっても、味が違うわけじゃない

「帆のる」各店の自慢はA5ランクの和牛メニュー。ステーキや牛カツもあるが、特に「和牛ラーメン」は、どんぶり鉢の縁を覆い尽くす和牛が強烈インパクトだ。「ムスリムの方もそうでない方も、訪日観光客が一番食べたいのは、ラーメンなんですよね」と店長の金子貴幸さん。スパイスを効かせてほどよく焼いた濃厚な和牛は、とろけるような極上の舌触り。その肉の甘さとあっさりスープとのバランスもよく、太めの麺もシコシコしていて、お値段にふさわしい満足感。堂々たるプレミアムラーメンだ。「一番人気は唐揚げをトッピングした鶏白湯出汁のラーメンですが、和牛ラーメンは脂とのバランスをとるために、スープはあっさりした和風にしています」。

「和牛ラーメン」150g 5,600円。A5ビーフを食べてみたいが、ステーキは食べきれない、という方にもおすすめしたい

通常のラーメンとなんら違いは感じないのだが、このラーメンのどこがハラルなのだろう?

祈祷して処理したハラル牛を、一頭買い

「お酒、みりん、醤油などの調味料は、ハラル認証がついたものを使用しています。アルコールは使用しない製法で、発酵中に出るアルコールも完全に取り除いている形ですね。製造工場も、同じ敷地内で豚肉やアルコールを含む食材を使っていては、ハラール認証を受けることができません」と金子さん。

もちろん、「帆のる」各店のキッチンも、禁止されている食品を扱うことはなく、消毒もアルコール以外の薬品で行っている。

アルコールと豚以外のルールとして意外と知られていないのが、肉の処理方法。ハラルミートと認められるには、イスラム法に従って、メッカの方角に向かって祈祷をしながら畜する必要がある。「帆のる」では、ハラルに対応できる日本に数カ所しかない処理場から、牛を一頭買いしている。

かくも多くのハードルを超えて提供されているこのラーメンは、ムスリムにとって高級ビーフの味に安心感がトッピングされた、最高のお味に違いない。

スタッフの瑠奈さん。インドネシア人の夫からイスラム教について教わったそう
お土産に、オリジナルのインスタントラーメンもご用意
インドネシアの香辛料サンバルをイメージしたピリ辛スパイスを添えたスパイシー唐揚げ980円
左はインドネシア人のスタッフ、アーグンさん。自炊派で、得意料理は「テンペゴレン!」(インドネシアの発酵豆食品の炒め物)とのこと

京都のハラル食対応は、業務スーパーが先を越していた?

お客さんだけでなく、スタッフも半数以上が在日ムスリムだ。スカーフ姿の瑠奈さんはイスラム教に改宗して1年余りの日本人。ハラル食のハードルをどう感じているのか?

「タブーとか、ダメっていうことよりも、神様が私たちの体に良くない影響があるものを教えてくれている、という優しさだという考えですね。体も神様からいただいたもの。きれいな状態で神様にお返しする、という考え方があるので、不浄のものは食べないのです」。

とはいえ、ムスリム対応で遅れをとる京都では、日常の食材探しも大変ではないか? 在日ムスリムの男性スタッフに聞いてみると、意外にも「買い物ですか? 食材は、業務スーパーで買っています」と返ってきた。え?意外。

業務スーパー三条河原町店ではハラルフードが豊富。カゴの中にあるのは全て認定マークがついた食材

行ってみると、河原町通の業務スーパーには、認定マークのついた食材が豊富に揃っていた。ムスリムに対して十分なハラルレストランとお祈りの場所が提供できていない京都の観光環境は、業スーに遅れをとっているのではないだろうか?

そんな街の噂が流れないよう、はやく改善されてほしいものである。

■ 帆のるぐらんで京都 

京都市下京区西石垣通四条下る斎藤町118-3
11:30~15:00(L.O. 14:30)17:00~21:30(L.O. 21:00)
https://assetfrontier.net/service/honolu/

※JETROのデータより算出
https://www.jetro.go.jp/biznews/2025/01/a2f26a7c2b5ef818.html

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企画編集(順不同、敬称略):光川貴浩、河井冬穂、早志祐美(合同会社バンクトゥ)、沢田眉香子