2024.4.12
京都発!世界初?のラオス料理本。研究者を志した二人のラオス料理は、ディープな美味しさらしい
噂の広まり
<この記事を書いた人>
沢田眉香子(さわだ・みかこ)
ライター、編集者。元[エルマガジン]編集長。著書に『京都うつわさんぽ』(光村推古書院)、『バイリンガル茶の湯BOOK』(淡交社)他。『世界に教えたい日本のごはんWASHOKU(淡交社)でグルマン世界料理本大賞受賞。
ラオスの食文化とレシピを体系的に伝える、初の専門書
ラオス料理って何?!京都のディープな食通ならば、レストラン「Yulala」と、小松聖児さんのポップアップレストラン「小松亭タマサート」で、ベトナムともタイトも微妙に違うその奥深さに心酔したことがあるんじゃないか。(ちなみに私も、片手に小松さんの絶品の蒸し具合の餅米、カオニャオを握りしめつつ、その味わいにハマっている一人だ。前回、この「ポmagazine」で小松さんに取材させてもらった記事はこちら)。京都の二人のラオス料理の伝道者が、日本初のラオス料理本『ラオス料理を知る、つくる』(グラフィック社)を共著で上梓した。
その内容だが、二人のラオスの食文化へ造詣の深さがひしひしと伝わる、重厚なる読み応え。ラオス本国にさえ、体系化された料理本はほとんどないというから、これは、貴重なる一冊だ。
ふたりの研究者を転向させた、ラオス料理の魔性の味
知識の深さも当然というか、二人は、最初は研究者としてラオスに赴いた。
岡田さんは1999年、大学院生時代に焼畑農業の研究のためにラオスに行き、この地と人を深く知りたくなって移住を決意。妻・綾さんと共にラオスに渡り、2005年首都・ビエンチャンに創作料理店を開店した。その店に客としてやってきたのが、当時、京大大学院、アジアアフリカ地域研究研究科で、ラオスに水産資源の流通の研究で来ていた小松さんだった。
料理を目当てに行ったわけではないふたりを魅了してしまったラオス料理は、タイ料理に似ているが、食べた感じはずっと軽い。
淡水魚と餅米を中心に、決め手はハーブ遣い。欠かせない調味料が、魚醤の一種・パデークだ。「パデークは魚を米ぬかで漬けて発酵、熟成させたもので、お味噌のような発酵の旨みと、淡水魚の出汁の旨みの両方を持っています。ラオス料理は野菜や肉がもつ素材の旨みとこのパデークの旨味を土台にして、さらにフレッシュハーブやトウガラシの香りと辛さをプラスして完成させる。食べたことない料理なのに、ベースにある旨みに、ちゃんと日本人が共感できるところがある」と岡田さん。
京都で実現できた、奇跡のラオス料理
岡田さんと、妻の綾さんは2015年にラオスレストランYulalaをオープン。その料理を食べた小松さんは「日本でもラオス料理ができるんだ!」と興奮し、それが現在の活動の発端となった。ラオスの味を伝える料理店はそれほど少なく、食材も入手困難だった。
「タイ料理屋さんとかベトナム料理屋さんで、ラオスと共通する調味料は手に入ります。何が一番大変かっていうと、新鮮なハーブ。もしハーブが入手できなければ、ラオス料理屋の看板を下ろそうって思っていたんですが、城陽の実家の畑で家族に作ってもらうことで調達できました」
さらに、小松さんから琵琶湖の魚でパデークを作る誘いを受け、2022年に自家製が完成。
「これで、ちゃんと胸張って、ラオス料理って言えるようになった。小松くんの紹介で琵琶湖の淡水魚を使えて、実家からフレッシュハーブも届く。これは本当に幸運で、すごい奇跡」
京野菜、琵琶湖の魚とラオスがリンクする
小松さんが主催する料理イベント「小松亭タマサート」のタマサートとは、ラオス語で「自然、天然」という意味で、そこにはメコン河の淡水魚と山菜、きのこ、ジビエ、昆虫、自然の食材が流通し、余すところなく生かすラオスの食文化へのリスペクトを込めている。
旬の地野菜が豊富な京都もタマサートな街。さらに小松さんは京都の「うみ」である琵琶湖の淡水魚を使い、ラオス料理を通じて、琵琶湖の水産業もアピールしている。
9年にわたって、YuLaLaでラオスの味を伝えてきた岡田さんは「たとえば、ラオスに旅行した人がラオス料理を恋しくなって、うちの料理を食べにくる。そしてもう1回ラオス行きたいって思ってもらえたら。そういう関係を生み出す料理を出していきたい」と言う。
現地の人たちと文化に共感し、日本との相違も探りながら、探求やまないふたりの研究肌の「ラオス料理道」。京都ならではの、食べて識る地域文化といえないだろうか。
おまけ
先日、『ラオス料理を知る、つくる』の出版を記念した小松亭タマサートの料理イベントが行われた。振る舞われたコース料理を、写真とともにご紹介。ラオス料理に興味がわいた方は、ぜひ「Yulala」と「小松亭タマサート」へ!
どれも、フレッシュハーブの爽やかさ、パデークのうま味がやさしく調和する味。エキゾチックなのに、どこか野趣があって懐かしさも感じる。こんな「クセになる味」に気軽にアクセスできる京都にいることに、しみじみ幸福感だ。
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小松亭タマサート
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企画編集(順不同、敬称略):光川貴浩、河井冬穂、早志祐美(合同会社バンクトゥ)、沢田眉香子
撮影(順不同、敬称略):沢田眉香子